1.戦前の日本政府の失敗の本質
元在中国日本国大使の宮本雄二氏が先月、素晴らしい著書を出版した。書名は『日中の失敗の本質』。
筆者は著者の宮本氏から、日中関係の改善に尽くす並々ならぬ情熱と豊富な経験、そして大所高所からの冷徹な分析を学ぶ貴重な機会をしばしばいただいている。
筆者が2006年から2008年まで宮本大使(当時)と同時期に北京に駐在して以来、現在に至るまで、一貫して指導を仰いでいる大恩人である。
この著書の第1章で、宮本氏は、対米開戦が戦前の日本が犯した最大の判断ミスであり、その根本原因は中国問題だったと指摘している。
米国の強大な国力を過小評価し、同時に中国のナショナリズムに対する正確な認識と政策を欠き、対中戦線を拡大したことが相俟って、日本は対米開戦という大きな過ちを犯した。
その根底には、欧米諸国の間で共有されていた第1次大戦に対する痛切な反省と平和への希求に対する認識が乏しく、日本は一周遅れのトラックを走っていた。
国際社会の変化に日本は鈍感であり、日本社会は内向きになり、「井の中の蛙」となってしまった。対米開戦という大きな過ちはそのツケなのだろうと分析している。
筆者も宮本氏のこの歴史認識に同感である。
人は自分にとって都合のいい、見たいと思うものだけよく見えて、都合が悪く、見たくないものは見えない、とよく言われる。
逆にプロフェッショナルは、人が見えない物事の本質を見抜く。つまり暗い部分が見える。だから日本語では、これを玄人(くろうと=暗(玄)い部分が見える人)と呼ぶ。
戦前の日本政府では国際情勢に通じ、的確に判断を下す玄人の見解が共有されていなかったため、大きな過ちを犯した。これが戦前の日本の失敗の本質である。