日本人しか栽培したり、さまざまな料理に使ったりしていないとされる「ゴボウ」をテーマに、その歴史と科学を追っている。
前篇では、日本に伝来したゴボウ属が食用として、世界の中で独自の進歩を遂げたことをたどった。日本にはゴボウを食材として受け入れる下地があったという、一応の結論に達した。
後篇では現代のゴボウに目を向けてみる。ゴボウでは知られる限り初となる、人工交雑を用いた育種により新品種が誕生した。福岡県農林業総合試験場が手がけた「サラサラごんぼ」だ。農家にとって重労働となる作業をなくし、食感や食味、また収量も向上したという。研究開発者に話を聞いた。
保温のための「トンネル被覆」が重労働に
福岡県でゴボウというと「ゴボウ天うどん」が知られる。だが、それだけではない。短期間で収穫する「若掘り」のゴボウが栽培され、県内外でサラダなどの食材に使われてきた。若掘りゴボウは、秋から翌春にかけて、農家が米づくりに使わない水田で栽培し、収穫するもの。葉つきで出荷するため、見た目がよく、鮮度も分かりやすい。
だが近年、福岡県の若掘りゴボウ農業に課題が生じている。他県でも若掘りゴボウ栽培が増えてシェアが減る中、「重労働」が伴うため高齢になった農家たちが栽培から手を引くようになってきた。
その重労働とは「トンネル被覆」という作業だ。福岡県農林業総合試験場豊前分場(行橋市)野菜水田作チーム長の柴戸靖志氏が説明する。