5年目のシーズンを迎える緒方孝市監督(写真:KOJI AKITA)

 セ・パ2リーグ制に移行した1950年以降、3連覇を達成した球団は6。セ・リーグではV9という圧倒的な時代を築いた実績を誇るジャイアンツが5回3連覇以上を成し遂げているが、あとは昨年から続くセ・リーグ王者の広島東洋カープのみである。

 カープの指揮官・緒方孝市は4年間で3度のセ・リーグ制覇を果たした。今、「もっとも勝っている監督」といって差し支えない。しかし、かといってそれにふさわしい評価を受け取っているわけではない。「12球団一、過小評価されている」といっても過言ではないだろう。それでも当の本人は表情ひとつ変えずに「当たり前だ」と言った。

 なぜか?

 いかにして“勝てるチーム”を作り上げ、勝利に導いているのか? 普段は寡黙な指揮官の独占インタビューで送る。

必要だった選手時代の目線を捨てる覚悟

 1987年に広島東洋カープに入団した緒方孝市は、32年にわたり赤いユニフォームに身をまとい続けている。現役生活22年、最後の2年はコーチを兼任しながら現役を続け、引退後は野手総合、打撃、守備・走塁、ヘッドコーチといずれも一軍でカープを支えた。そして2014年シーズン終了後、監督に就任。下馬評の高かった就任1年目はBクラスに終わったものの、2年目からはチーム3連覇に導いた――。

―― 14年シーズン終了後、5年間のコーチを経て監督に就任されました。

緒方 戸惑いましたね。選手からコーチになって最初に感じたことがそれでした。

―― それはどういうことでしょうか?

緒方 アスリートから指導者になるという切り替えの部分ですね。自分がグラウンドに出てプレーするわけじゃなく、逆にグラウンドの外から野球を見る立場。選手や試合の流れを見て、どうすべきか、何をすべきなのかを指導、指示する立場になった。経験してきたことが生かされることはあっても、それがすべてではないですからね。

―― アスリートじゃないと自覚するのは難しかった、ということですか。

緒方 難しいですよ。なかなか切り離せない。指導をしていて思ったのは「アスリートとしての経験が邪魔になる」ということでした。(プレーしているのは)自分じゃないので、自分の経験則だけを元にした指導になってはいけない。言葉ひとつをとっても、選手の受け取り方は十人十色。だからいろんな引き出し、いろんなものの見方、捉え方、考え方をした上で(伝えるための)言動を考えないといけない。それに気づき、慣れるのに少し時間がかかりました。