緒方 先ほども言いましたが、うちは限られた戦力で育てながら勝つことが求められているので、個の力だけを相手と比較しても、飛び抜けて高いわけではありません。劣っていることもたくさんあるでしょう。昨年までの3連覇も、紙一重の戦いばかりでした。その中で勝つためには、個の力に加えて組織力が必要。それが「1+1」の足し算となるのではなく、かけ算としてチーム力を上げていかないといけません。
他の監督と自分を比較することはない
―― ここ数年、数字や結果だけでチームを作るのではなく、ムードメーカーの役割を担った選手を置くことなども強みではないかと思っています。
緒方 そういう選手は戦う上で必要な戦力だと考えています。ベンチ入り25人は全員レギュラーが集まっているわけではありません。レギュラー以外にも途中から出ていく選手もいます。代打や守備固め、代走、いろんな役割がいて戦えるんです。当然、その日のコンディションは浮き沈みがありますし。いろんな流れもあります。そんな中では、やはり“気”がないと戦えないと思うんです。そういう意味でムードメーカーとなれる選手は静まり返ったベンチで元気な声で盛り上げてくれたり、途中出場する選手の背中を押してくれるひと声をかけてくれたりと、ベンチのムードを高めてくれる目に見えない働きをしてくれています。選手同士の空気作りは組織において、絶対に必要だと思っています。
普段から口数が少ない九州男児。メディアに向けたリップサービスはもちろん、必要最低限のこと以外は語りたがらない。ゆえに誤解を生むこともある。正当な評価を受けていないとも感じる現状にも、本人は動じない。指揮官の目には周囲の評価や評判は映っていない。ただ、目の前の試合、目の前の1勝にすべてを注いでいる。それはこれまでも、そしてこれからも変わらない。
―― 3連覇しても監督として過小評価されていると感じませんか。
緒方 それは日本一になっていないので、当然です。3年続けて最後にファンの人を失望させているわけですからね。1回でも日本一になっていれば、また違う自分がここにいるかもしれません。でも何かが足りないから(日本一を)取れなかったので、どうしたら勝ち取れるのだろうということしか頭にないんです。
インタビュー中、一貫していた「結果」の先に「ファン」の存在を置くマネジメント。だからこそ現状の評価は妥当だと言うわけだ。
―― 32年間過ごすプロ野球界という特別な世界と、一般社会とでは通じるものもありますか?
緒方 僕の立場からすれば、通じていないとおかしいと思いますね。選手のときはボールを追って、毎日バットを振って・・・、グラウンドの中がすべてという感覚でした。もしかしたら外の社会のことは分かっていなかったかもしれません。でも現役を終えてからは、普通に社会に出ても通用する考え方でないとチームを預かることはできません。
―― 日本で12人しかいないプロ野球の監督の中で、ご自身が勝っている点はどこだと感じますか。
緒方 相手球団と戦うということは監督とも戦うということなのかもしれませんが、私はそこに目を向けてはいません。はっきり言って、優秀な監督はたくさんいらっしゃいます。ほかの11球団の監督だけでなく、広島のスタッフを含めても、自分以上に優れている指導者はいると思いますし、これからもどんどん出てくるでしょう。
でも今年も優勝を目指して1試合1試合戦う上で、ファンの方にカープの野球を見て喜んでもらうことしか頭にはありません。いかに自分たちの野球、カープの野球をやるか、というところで戦っています。それ以上でも、それ以下でもない。ファンの方の喜びが、監督の喜びなのだと思います。