―― 監督は選手を選べません。戦う集団、勝てる集団に育てる秘訣は何でしょうか。

緒方 監督は指揮を執るといっても1人では戦えません。グラウンドで戦うのは選手。その選手をしっかり指導、サポートするのがコーチであり、マネージャーであり、トレーナー・・・さまざまな人が関わっています。ですから、個々で見るのではなく、組織として見ないといけません。先ほど選手はグラウンドで結果を出す、自分の成績のためにプレーすればいいと言いました。でもプレーしている選手だけで勝てる甘い世界ではありません。そして監督だけでも勝てない。長いペナントレースを勝ち抜くためには、しっかりとした組織を作らないと戦っていけません。

 エース・前田健太(ドジャース)が抜けた年に25年ぶりの優勝を果たし、精神的支柱であった黒田博樹氏が引退しても、連覇を果たした。個ではなく、組織としてチームを作り上げたことが、3連覇への道筋を作ったと言える。広島一筋だからこそ、その機微をつかめたという一面もあるのだろう。

―― 組織を作る。その中で広島という球団の特徴をどう考えますか。

緒方 独特なものがあると思っています。選手を育成して戦力にして戦っていかないといけません。(FAやトレードなどで)1年1年大きな戦力を補強して、まったく違うチームにすることはできない。広島が戦っていく道は、その道しかないわけです。ただ、私は逆にそれでいいと思っています。広島でほかの道は考えられないから、そこに絞ってチームを見ていけばいいんです。

―― というのは?

緒方 プロ野球は1日、1日、結果が出る世界です。勝てばうれしい、負ければ悔しい。結果で気持ちが左右されるのですが、それだけでは苦しいだけです。正直やっていられないと思うこともある。ただ、広島で伝統的な野球をやるということに気持ちを向ければ、意識は変わります。ファンの存在がありますから。結果を出す、それが絶対的な目標ですが、その先に伝統的な野球をすることで喜ぶ人たちがいるという理念がある。その存在を思えば、苦しいことも耐えられる。それがプロの世界だと思っています。

 生き馬の目を抜く世界で結果だけにモチベーションを求めるのは簡単ではない。しかし、緒方はさまざまな経験を経て、結果の先にある「ファン」の存在を持って組織をマネジメントしようとしている。だからこそ、ブレることなく前に進める。

勝つために必要なもの、それが「ファン」

―― 監督は常勝チームでありながらチームの変化を恐れません。

緒方 1年勝ったからといって、同じ戦力で同じ戦いをしても続けて勝つことはできないですから。常に新しい形を作る覚悟と勇気をもって1年をスタートさせています。1年のスタートは(春季キャンプが始まる)2月ではなく、前年のシーズンが終わったときから始まっています。選手たちは今、自信をつけているでしょうし、やってきたことが間違いないと思っているでしょう。ただ「このままでいいんだ」では成長、進化は望めません。

 チームもメンバーも変わらないといけないし、変わって当たり前。新しい選手が入ることは必ずしもプラスではなく、計算できないというマイナス面もあります。ただそういった側面も受け入れて(新しい選手を)組み込んでいかないとチームは変わっていきません。新しい選手が経験を積むことで力をつけ、チームにとっても大きな力になってくれます。勇気をもって形を変えていきたいと思っています。

―― 昔の広島は個の集団のイメージが強いですが、今は結束力の高い輪の集団となりました。