竜馬はこのゲラゲラ笑いで思考の枠組みを「ずらす」ことに成功した。互いに相手をバカにしたい気持ちを抱き、それを互いに感じるから、反発しあっていた。しかしそれにこだわるプライドも、第三者である竜馬からすれば笑うべきこと。こだわるのはつまらないことだというのが、その場にいる人間に明らかになった。

 西郷隆盛がにっこり笑い、「そうです、いかにも芋侍です」と引き取ったことで、互いにこだわりを捨てることができ、薩長の話し合いが急速に進み、同盟が成った。

 環境問題への取り組みでも、同様のことが起きた。

 1992年にブラジルのリオで開催された環境サミットでは、早急に環境対策を施さないと、地球が壊れてしまうという認識では各国一致していたけれど、自国はなるべく経済的な損はしたくない、というエゴで対立していた。

 なかなか話がまとまらない中、サミット会場の横で一所懸命に何かを訴えている少女たちがいて、試しにサミットで話をするチャンスを与えよう、ということになった。

 11歳のセヴァン・スズキという少女が、6分足らずの講演をした。のちにこの講演は「伝説のスピーチ」と呼ばれるようになった。私が贅言を費やすより、「セヴァン・スズキ」でグーグル検索すればそのスピーチの動画があるので、ぜひ一度、ごらん頂きたい。

 彼女の功績は、それまでのサミットでの議論が、大人のエゴの対立ばかりという「思考の枠組み」にとどまっていたのに対し、11歳の少女から、「あなたたちは何のためにここで話し合いをしているのですか? 次の時代の子どもたちのためではないのですか?」と突きつけられ、「そうだ、我々は自分たちのためではなく、次世代のために話し合いに来たのだった」という、本来の思考の枠組みに立ち戻らせたことだ。

 彼女のスピーチは、その後も世界中の人々を勇気づけ、環境問題を推進する力となっている。彼女のスピーチを見ると、自分たちのエゴという思考の枠組みにとどまるべきではなく、「子どもたち」という枠組みに立ち戻らなければならない、ということを思い出せるからだ。

思考の枠組みをずらす訓練

 ビジネスでは、交渉ごとということが欠かせない。そんな場面でも、「思考の枠組み」という捉え方は、とても参考になる。

「思考の枠組み」をずらし、難局を何度も乗り切ってきた人物としては、晏嬰(あんえい)は達人といえるだろう。