しばらく、最近の様子を伺った後、「体を壊さないでくださいね」と声をかけた。するとその人は、翌日から表情が明るくなった。
その人は数年後、退職することになった。その送別会の席で、「あのとき、体を壊さないように、と言ってくれたの、本当に嬉しくてね」と感謝された。私は、ただ声をかけただけのことだったのだが、その言葉かけが、その人にとって、とても心を軽くするきっかけになったのだという。
この経験をきっかけに、ようやく気がついたことがある。「裏のメッセージ」が相手に伝わる、ということだ。
「がんばれ」というメッセージには、「あなたはまだがんばっていない、がんばる余地がある、その余地を残さずがんばりなさい」という裏のメッセージがくっついているように感じるのだ。だから、「がんばれ」と言われると、「がんばっていないとでも言うのか?!」と、いきり立ちたくなる気持ちになるようだ。
「がんばれ」という言葉には、「おまえはまだがんばっていない」という「裏のメッセージ」がくっついてしまう。それが相手を傷つけ、相手の気持ちを追い詰めてしまうようだ。
それとは対照的に、「がんばり過ぎないで」「無理をしないで」「体を壊さないようにね」というメッセージには、「あなたはすでにがんばっている、がんばり過ぎている、これ以上がんばるとあなたは壊れてしまう、それが私は心配、もうそれ以上がんばらなくていいんだよ」という「裏のメッセージ」が伝わる。
すると、言われた側は「私が十分にがんばっていることを、この人は認めてくれた。見ていてくれたのだ」ということに気がつき、嬉しくなるようだ。ホッとするようだ。
自分が十分にがんばっていることを、他の人も認めてくれた、と感じるから、「がんばっているように見えるんだ。がんばっていることを認めてくれたんだ。じゃあ、もうちょっとがんばっちゃおうかな」と、逆に意欲を取り戻すきっかけになったりする。
あるいは、自分は十分にがんばっているのだということを確認できた安心感から、「力こぶの入れどころを工夫しようかな」という、気持ちの余裕が生まれる。