領土問題には相手がいる
世論調査などを見ると「4島一括返還」という声が圧倒的に多い。それはそうだろう。実現するのであれば、それが最良である。だがロシアがこんな要求を認めるわけもないこともまた自明である。
そもそもなぜ北方領土をソ連に取られたのか。戦争に負けたからである。戦争に勝っていれば、取られることはなかったのだ。竹島や尖閣諸島でもそうだが、実効支配しようと思えば、実力行使という側面がどうしても出てくる。これが領土問題である。
産経新聞1月24日付に、「正攻法で領土返還を目指せ」という主張が掲載されていた。「4島は日本固有の領土だ。日ソ中立条約を一方的に破ったソ連が不法占拠した。ロシアは4島を日本に返還しなければならない」「日本はこの法と正義に基づく立場を変えてはならない」とある。それはその通りなのだが、これでは一歩も進まないこともまた事実である。
1941年8月の大西洋憲章では、「領土的たるとその他たるとを問わず、いかなる拡大も求めない」と明記し、43年11月のカイロ宣言でも「領土拡張の何等の念をも有するものにあらず」としていた。戦争による「領土不拡大」というのが国際社会の原則であった。これを破ったのが当時のソ連の指導者スターリンである。この強欲なスターリンの要求を認めたのがヤルタ会談でのルーズベルト米大統領とチャーチル英首相だった。自ら領土不拡大の原則を世界に示しながら、スターリンの不当な日本領土の強奪要求は認めてしまった。北方領土問題は、スターリン主義の悪しき遺産なのである。
はっきり言えるのは、国後、択捉はサンフランシスコ条約で放棄した千島であったとしても、歯舞、色丹は同条約で放棄した千島ではないということだ。これは現在のロシアの指導者に対しても、大いに主張すべきことである。
1月22日の日ロ首脳会談をめぐって、めぼしい成果はなかったようだが、それは当然のことであろう。日ソ、日ロの交渉は何度も行われてきたが、結局領土問題では一歩も進まなかった。今、初めて領土交渉が始まったと言っても過言ではない。安倍首相のやり方に対して、「前のめり過ぎる、ロシアペースに巻き込まれるな、長期的視点で」などという論評が新聞に掲載されている。無責任な論評だ。戦後70年以上経過しているのだ。急いで行うべしと言いたい。