ミッションが従業員に浸透しているのは、それを具現化するための7つのビジョン*1が行動指針として示されていることにも起因するという。このビジョンは2012年、トップダウンではなく、全社員が1年かけて議論した末に、策定されたものだ。そうした策定プロセスこそ、社員にとってミッションが「腑に落ちる」内容となっている大きな要因だろう。

*1:7つのビジョンとは、「ゆがみがない事業・関係性をつくる」「すべてのステークホルダーと真摯に向き合う」「みんなで会社をつくる」「志を尊重する」「わくわく感を大切にする」「違いこそ組織の力に変える」「厳しく求め支え合う」というものである。

ティール組織を実践できた3つの理由

 最後にネットプロテクションズで、なぜ「ティール組織」のような進化ができたのか、まとめてみたい。

 まず、第1に挙げられるのが「トップ」の強い意志である。柴田紳CEOには、自身の経験から前時代的組織モデルへ強い問題意識を持ち、従業員のやりがいを重視した「自律・分散・協調」の組織文化を目指す、という強い思いがあった。実際、同社ホームページに同氏の思いが次のように書かれている。

「メンバーが熱量をもって全力をぶつけられ、ダイナミックに成長することができ、幸福でいられること、個人的にはそういった組織を創り上げることにこそ、最も執着して真摯に取り組んできました」

ティール組織』の中でも、トップのコミットメント(ティール組織文化への理解)はティール組織を実現するうえで、絶対に必要な条件であり、それが得られない場合、失敗する(従来型組織のあり方に簡単に戻ってしまう)と結論づけている。

 そして2つ目は、「ワーキンググループ制度」や異動の希望制といった取り組みが有効に機能し、「自主経営」への突破口となったことだ。逆に「さあ、自主経営をしましょう!」と言われただけでは、なかなか実現は難しいだろう。

 3つ目は、「存在目的」となる組織の方向性を従業員と共有できている、ということだ。ビジョン策定に従業員を巻き込むというプロセスが奏功したのは、前述のとおりである。トップダウンで宣言しただけでは「額縁にかざられたミッション」として風化してしまうだろう。