この中にもある「不信」や「恐れ」は、前時代の組織の問題を表す重要なキーワードである。たとえば、従業員に対する「不信」は、従業員の主体性を奪う「統制」へとつながる。また、経営者や上司に対する「恐れ」から、従業員は萎縮し、自らの個性を発揮することができない。

 それに対し、「ティール組織」の実践において重要なキーワードは「信頼」と「安心」である。経営者や上司と従業員、さらに従業員同士が相互に信頼していれば、「統制」はいらず、「安心」して仕事ができれば、従業員はその才能と情熱を最大限に発揮できる。

 その結果、ティール組織で働き続けている従業員はみな(幸運な特別な人たちでなくても)職場で充実感を感じながら、やりがいを持って働けるというわけだ。そして、上司やマネージャーがいなくても、従業員がその役割を主体的に果たすという驚くべき「働き方」が実現するのである。

*1:『ティール組織』では、その前段階として、トップ-ダウンで成果や株主を重視する(外資系企業のイメージが近い)「達成型組織」、家族的で平等とコンセンサス、多くのステークホルダーを重視する(日本の昔ながらの中小企業イメージに近い)「多元型組織」といった組織モデルが紹介されている。たとえば、達成型組織の問題点としては、(成功が金銭と称賛だけで計られるために)働く人が限りなく強欲になることが、多元型組織の問題点としては、仲間との関係性や周囲とのコンセンサスを重視しすぎて、袋小路にはまってしまうことなどが挙げられている。

官僚的組織への問題意識から組織づくりに注力

 今回、取材したネットプロテクションズの「ティール組織」的な風土づくりの原点にも、前時代組織モデルへの問題意識があった。

ネットプロテクションズ 人事総務/ビジネスアーキテクトグループの河西遼(かさい・りょう)氏。

「意欲をもって入社をしたのに若手だからと裁量を与えられず、自ら動こうとすると官僚的組織の規制がそれを邪魔する――、そうしたことに対して柴田(紳CEO)は憤りをとともに、社会的な課題を感じていたと聞いています」と同社人事総務/ビジネスアーキテクトグループの河西遼(かさい・りょう)氏は、大手商社出身である柴田氏の、自身の経験から湧き出たという問題意識を説明する。

 ネットプロテクションズは、クレジットテック(Credit Tech)*2を中心に事業展開する企業で「現金による後払い決済」のサービスが有名な企業だ。