裸にされた「たぬき」

 私が日常的に経済コラムを書かせていただくようになったのは2006年に開高健賞というものをもらって以降のことで、40歳を過ぎてからの生活の変化でした。

 開高健という人は、ご存知のように釣りからグルメまで幅広い守備範囲の作家でした。

 楽隊業や大学での諸々と並行してコンスタントに原稿を入れ続ける私は重宝され、当初は様々な依頼をいただいて、大概はお答えするようにしたので、10年くらい前には相当幅広の内容で本を出しました。

 最近は本の出稿が減ってしまいましたが、生前の開高健さんを担当された編集者にもご担当いただいて「ずばり東京」のような軽いタッチの原稿も所望されたこともありました。

 そうした中でしばしばリクエストがあったのが「食」でした。

 その頃の話題の1つですが、フランス料理のシェフなどが変わった食材で新メニューを作ったとします。

 ところが完成した料理は味がいまいち。さてどうするかというとき、「『万能のごまかし調味料』がある」と教えてもらいました。何だと思われますか?

 バターだというんですね。

●双璧の王者、マヨネーズとバター

 魚の身がパサついている、野菜がいまいち新鮮でない、肉が安物で味が良くない・・・。

 こんなとき、溶かしバターでサッと表面をコーティングすると、あらあら不思議、何でも「美味しく」感じてしまう、らしい。

 「バターで茹でる」(という表現もそのとき知りました)とか「バターでソテする」というのは、料理人としては白旗を上げるような面もあるように聞きました。

 しかし、バターの効用は確かにその通りで、私がお話をうかがった方も、バターだけは良質なものを絶やさないようにしている、とのことでした。