「教えない」「見守る」時間を楽しむ

 この1カ月は、迂遠なようでも、あまり先回りして教えることをせず、むしろ「起こり得る失敗」をなるべく一通り経験してもらう。あるいは擬似体験してもらう。そうすることによって、自分の仕事を深く理解してもらい、完全にマスターしてもらう。

 部下の失敗につきあうという、実に時間のかかる指導法ではあるのだが、1カ月もつきあえば、だいたい必要なことを伝えることができる。その1カ月を惜しむと、何年も何年も、教えてもまた忘れる指示待ち人間が出来上がって、そのつど丁寧に指示を出し、しかも何度指示を出しても忘れてしまう部下が出来上がる。こまごまとした指示を出すのに費やされる時間は膨大になる。

 それくらいなら、1~3カ月は手を抜かず、しっかり部下を指導したほうがよい。その指導法とは、失敗をなるべく経験させ、妙に教えすぎず、なるべく部下自身で考えてもらい、手を動かしてもらうやり方だ。

 指導するあなたは、言葉もそんなに費やす必要はない。多くの時間は、見守る時間となる。しかし、この「見守る」時間をおろそかにしてはいけない。部下が危険な目に遭わないように見守らなければならないし、見守りがあってはじめて、部下は安心して「失敗」できるからだ。

「自分が見守っている間は危険もないし、失敗しても全部リカバーできるから大丈夫。今のうちにたくさん失敗してください。失敗すればするほど、深く理解できるから」。そう、私は「お願い」している。そうすると、学生もスタッフも安心して失敗できる。

 失敗したとき、叱る必要はない。面白がるくらいでちょうどよい。「後日、成長した頃に笑い話のネタにしてやろう」くらいに考えるとよい。その上で、「そうしてみたのは、どんな考えから?」と質問してみよう。その考え方が道理にかなっていたら、「面白いねえ!」と感心するとよい。

 実際、私はこの素人ならではの勘違いしやすい時期に、新しいアイデアを捕まえたことがたくさんある。勘違いから生まれる新しいアイデアの発掘時期として、この時間を大切にしている。