刑務所でムエタイに励む連中を見かけたビリーは自分も仲間に入れてほしいと懇願する。

地獄で見つけた一筋の蜘蛛の糸

 カンダタが蜘蛛の巣を見つけた心境だったろうか。地獄で仏を見たのか。彼らのいる棟は同じ刑務所内にありながら、ビリーがいるところとは雲泥の差だった。そこにいる囚人たちは顔つきも爽やかでアスリートらしい。元・人殺しと現役の違い。人以下の扱いから人らしい生活へ。ムエタイのチームの一員となると所外に出て、よその刑務所の囚人選手との試合もでき、チャンピオンともなると特権もある。

 願いがかない、ムエタイの精神を学びながら、トレーニングに励むビリーだったが・・・。

 この映画で最も恐ろしさを感じた瞬間は刑務所の凄まじさよりなにより、そんな生き地獄を経験した人でさえ断ち切ることのできない薬物の依存性だ。厳罰より治療を選ぶ国があるが、それも選択の一つと思えてくる。

 壮絶な半生を送ったビリー・ムーアは刑期を終え、現在は故郷のリバプールでドラッグに苦しむ人たちのサポートをしているという。まさに男ビリー・ムーア。こういう人を「男」というのではないか。

 ビリーの恐怖、絶望、後悔、不安・・・すべての負の感情を追体験したであろうジョー・コールの二度はない演技も素晴らしい。

 先日、発表されたばかりの英国インディペンデント映画賞でジョー・コールはみごと主演男優賞を受賞。

「タイの人たちから厳しい指導を受け、長い時間をかけて狂ったように練習し、毎日ボコボコにされました。撮影が終わって、帰りの飛行機に乗れたときは最高に嬉しかったです」とスピーチしている。

 ボクシングには裏切られたが、ボクシング映画はやはり裏切らない。

『暁に祈れ』

監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』

原作:ビリー・ムーア「A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand's Prisons」

出演:ジョー・コール『グリーンルーム』「ピーキー・ブラインダーズ」、ポンチャノック・マブラン、ヴィタヤ・パンスリンガム『オンリー・ゴッド』、ソムラック・カムシン 他

2017年/イギリス・フランス/英語、タイ語/シネスコ/117分/

原題:A Prayer Before Dawn/R15+  

日本語字幕:ブレインウッズ

提供:ハピネット+トランスフォーマー

配給:トランスフォーマー 

12/8(土)ヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開!

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公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/APBD/ 

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