人生の再スタートを切ろうとムエタイの聖地、タイにやってきた英国人ボクサーのビリー。ところが麻薬にはまってしまい、ファイトマネーはすべて薬物(ヘロインとヤーパーと呼ばれるタイで出回っているドラッグ)に消える。ついには警察の家宅捜索に遭い、チェンマイの刑務所に収監。言葉がわからないうえに、周りはタイ人だらけ。房は定員オーバーなんて生易しい言葉では表現しきれない、明らかに違法な数の人で溢れかえっている。重なり合うように眠るというが、ここでは寝ると本当に重なる。おまけにけんかに巻き込まれたビリーが入った房は凶悪犯の集まりで、レイプや殺人が日常的に行われていた。途方に暮れたビリーは日々、憔悴していく。

囚人を演じるのは、役者ではなく「本物」たち

 映画がまだ序章のうちにいきなり絶望的な気持ちに追いやられる。タイやフィリピンの刑務所の劣悪な環境はよく耳にするが、あまりのひどさに暗澹たる気持ちに。ドゥテルテ氏が大統領になってからのフィリピンの刑務所はもっと惨憺な状況なのだろうか。この映画が衝撃的なのは「ボクシング」どころか、どんな場面もすべてガチだということ。

とにかくリアルな刑務所シーン

 演じるジョー・コールが見せる表情も演技じゃない。素だ。それもそのはず、彼以外、映っているのは全員タイ人で、体はもちろん、顔中にもびっしりタトゥーをしているような異様な風貌の人ばかり。メイクではない。彼らは役者じゃないどころか、本物の元囚人で出所ほやほやの人もいる。ロケ場所も刑務所。元囚人たちの意見を反映し、なるべく実物に近い状態が作られた。そんななかで撮影していた俳優の気持ちやいかに。