マウンドで必要だった「データ」とは?
前回(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54570)、データの用途を3つに大別した(➀試合に勝つためのデータ[相手の配球、打球方向の傾向など]。②選手育成のためのデータ[投球の回転数や回転軸、打球速度など]。③スカウティングのためのデータ[補強・契約時に有用な能力指標など])。
斎藤さんによると、試合中に選手が(➀試合に勝つためのデータ)を必要とするシーンはそんなに多くはないそうだ。
「私の場合は、リリーフだったこともありますが・・・相手打者のゴロゾーン、フライゾーン、空振りゾーンを、それぞれ有走者時、無走者時に関して抑えておくだけで十分に戦えました。相手打線と3巡、4巡と対峙しなければならない先発投手は、もう少し詳しくインプットしているのかもしれませんが、せいぜいその程度です。これは、現在のメジャーリーグでも変わらないと思います」
実際、現場でプレーする選手から見ると、(まだ)数値化されていない感覚やメンタル的な問題が試合結果に左右されることが多く感じるという。
「私は現役中、ホットゾーン(相手バッターがよく打っているゾーン)のデータは絶対に見ないようにしていました。データ的には必ず避けてほしいコースですから、頭に叩き込んでおけ、ということになるんですが・・・どうしてもそれを知ってしまうと、そのコースへの意識が強くなってしまう。おかしなもので、そうするとそのコースにボールがすっと行ってしまったりするんです」
だから斎藤さんは、相手打者の「ゴロゾーン」「フライゾーン」「空振りゾーン」をそれぞれ有走者時、無走者時にわけたデータを頭に叩き込むにとどめていたのだ。
日本でトラックマンを導入していない広島が強さを誇っているのはこうした面を反映しているかもしれない。
「ただこれは、あくまでゲームでの話で、メジャーにおいてデータはとても重要視されています」
現在、データが最も有効活用されているのは(③スカウティングのためのデータ)だという。
「トレードやフリーエージェントによる補強。そしてドラフト。そういうスカウティングの面で最も活用されていると思います。パドレスのスカウト会議でももちろん、データを中心に話し合われますからね」
斎藤さんには忘れられないシーンがある。パドレスのスカウト会議に参加したときのことだ。あの時、水を打ったような静けさが、会議室を覆った。
「大人が大げんかをして、お互い主張を譲らないので、本当シーンとしていましたね・・・」
原因は獲得する選手の評価が、スカウトとデータ班で真っ二つに分かれたからだった。長年、その選手を追いかけてきたスカウトはどれだけいい選手かを説明する。一方、データ班は数字だけで判断する。「言いたいことはわかりますが、最終年に数字が落ちていますから、獲得できません」といった具合だ。