スカウト会議で始まった喧嘩、その結果は?
「スカウトにしてみれば『子どもの頃から目をかけて10年以上見続けてきた選手が、なぜここ数年の、しかも数字だけで判断されなくてはならないんだ』という思いがあるわけです」
興味深いのはその後の展開だ。
「メジャーも必ずしもデータ一辺倒ではありません。スカウティングではデータが優先されることも多いですが、パドレスのA.J.プレラーGMの場合はデータ以外の部分を尋ねる。それは、選手の性格などのディテールです。趣味は何か? リーダーシップはあるのか? 他にも、練習のためにチームメートの中で最初にグラウンドに出てくるタイプであるかとか、チームメートがグラウンド整備しているのに手伝わないとか・・・GMがスカウト上がりということも影響しているかもしれませんが、最後に重要視するのは現場のスカウトだけが知る、数字ではないデータと言っていいかもしれません」
「他のメジャー球団も同じかは分からない」と斎藤さんは言うが、それでもメジャーリーグの最前線で、「数字で測れないデータ」が活用されているとは驚きだ。
「チームによってデータの出し方、計算方法、優先度が違うのだと思います。それはすべて極秘扱いです。ただ、最先端のデータと経験の部分を融合しても、若い選手の未来を予測するのは難しい作業だとは思いますね。だから向こうのスタッフたちは日本のドラフトにも興味を持っています。よく聞かれるのが、なぜイチロー選手が4位指名だったのか。そしてソフトバンクの柳田選手がなぜ大卒でドラフトされたのか、ということです」
データをしっかりと活用していれば、イチローはもっと上位で指名されただろうし、柳田はもっと早くプロ入りできたはずだ、と言いたいのだろう。
「日本のプロ野球は、メジャーよりも選手寿命が短く、支配下選手数も少ないので、2、3年以内には一軍で活躍するような即戦力タイプの選手を上位指名する傾向にある。そういう観点から言うと、イチローも柳田も高卒の時点ではまだ体が細かった。だから評価が低かったと説明しています(笑)。メジャーにも数字ではないデータを活用してスカウティングするチームがあると話しましたが、私はそれでいいと思うんです。だってすべてのチームが同じ指標で選手をスカウトしていたら、面白くないじゃないですか。日本のやり方にも興味を持つ。選手のディテールにもこだわる。それがチーム作りの個性につながるんです」
あまりにデータに頼りすぎると「データ上のいい選手」を作りかねない。次回、斎藤さんに「データ」野球で注意すべきポイントを聞く。