「牛の肥えしことにも嫉妬する村人山深く貧しき村に吾が住む」

 高度成長時代の昭和40年代に詠まれたものだ。牛が肥えても、稲穂が実っても、田舎はすべてお見通しで、それが時には嫉妬の、時には蔑みの対象になるのだ。これは田舎だけではない。人は誰もが嫉妬渦巻く中で生きているのだ。

テレビ番組を見て感じる2つの疑問

 テレビで紹介されている移住家族を見ると、新たな土地でどんな仕事をするのかと言えば、パン工房、レストラン、宿、居酒屋等々の客商売が多い。当事者が高齢ということもあるのだろうが、週1回だけ宿泊できる宿とか、週2~3日営業のパン屋さんとかが余裕のある働き方として紹介されている。テレビで紹介されるぐらいだから、商売は軌道に乗っているかに見える。村人とも和気藹々(わきあいあい)の映像が流される。

 だが私には、2つの根本的な疑問がある。

 第1は、どんなホテル・宿、パン屋、レストランでも、経営を成り立たせるために大変な苦労と努力をしている。それでも上手くいかないことが多いのが商売というものだ。それが商売の経験もない高齢者夫妻が、週1日の営業の宿や週2~3日営業のパン屋をやって、本当に経営が成り立つのか。生活を維持するためには、無借金はもちろん、相当な蓄えが必要なはずだ。だがそんなことには、まったく言及がない。

 二十数年前に、私の友人夫妻が銀行を退職して信州でペンション経営を始めた。蓼科湖の近くだった。私も何度か行った。銀行員時代の友人などが来てくれて、最初のうちはなんとかなっていたようだが、数年で閉鎖することになった。最大の要因は、銀行からの借金でペンションを建てたこと、奥さんの身体がもたなくなってしまったことだ。自分で商売をやるというのは、そういうことなのだ。一方が身体を壊せば、それで終わってしまうのだ。

 第2は、見ず知らずの人間が都会からやってきて、いきなり始めた商売が上手くいったとして、そんな光景を村人はどう見るのか。嫉妬の塊になること間違いなしだ。