中国のなかでも、西南地方の内陸部にある貴州省は影の薄い地域である。省面積の9割以上は山地や丘陵で、一人あたりGDPも中国の一級行政区画(省・自治区・直轄市)33地域のうちでワースト3位。少数民族が多くて漢民族は人口の6割ほどしかおらず、伝統的な農村の価値観のなかで暮らす人も少なくない。
近年はビッグデータ産業の振興政策が進められ、アップルがデータセンターの設置を発表したりもしたが、全体的に言えば中国人の誰もが認めるほどの「ド田舎」である。
今年(2018年)2月28日、この貴州省の新聞『貴陽晩報』が興味深いニュースを報じた。2年前の年末に貴陽市郊外の農村・南白鎮後バ(土偏に覇)村で、結婚式の最中だった男性に重傷を負わせた新郎の親友3人に、合計9万元(約152万円)あまりの賠償金支払いが科されたのだ。なお、貴州省の農民・労働者の平均年収は3.9万元(約66万円)である。
伝わるところでは3人は、大通りで結婚のお披露目パレード(中国では庶民でもド派手な披露宴をおこなう)の車上にあった新郎を捕まえて車列の最後尾にあった自動車内へ引きずり込み、抵抗する新郎を押さえつけてガムテープで口をふさいで手足の拘束を図った。新郎はこれに抵抗するなかで車から落下し、顔面から路面に激突。周囲は流血で染まり、被害者は顔面骨折のうえ身体障害が残ることとなった。
すわ、痴情のもつれか長年の復讐か――? と思いきや真相は異なる。新郎とは子ども時代からの遊び相手だった親友らがおこなったのは、庶民的な漢族が婚礼のときにおこなう伝統的な習俗「鬧婚(中国語読みで「ナオフン」)」(婚鬧、鬧喜、鬧洞房など別称も多い)だったのだ。