場合によっては加害者が逮捕されるような微妙な問題だけに「これなら、書いても大丈夫」と、こちらが思えるケースに限ってまとめたのが本書だ。だから、その何十倍も、何百倍もある未解決の問題の、被害者の悔しい気持ちがこの本の背景にはある。
「力の差がある」という想像力が働かない
教え子にわいせつ行為を繰り返す教師が絶えない原因は、圧倒的な「力の差」にある。学校というシステムの中で、強い権力を持つ教師が、弱い立場の教え子を意のままにできるのが問題の構図だ。
「大人と子ども」「教師と生徒」「部活動の指導者と選手」といった、何重もの力の差でがんじがらめにされた子どもたちが被害に遭っている。
しかも、たちが悪いことに、私が取材した加害者たちは「自分に権力があるなんて、考えもしなかった」と語る。「子どもと同じ目線」で見ていた、というわけだ。教え子にとっては、圧倒的な強者だと気付かない。
そして「対等な立場の恋愛だと思った」と言う。「嫌なら、そう言うと思った」と話す。被害者が「ノー」と言えない、という想像力が働かないのだ。
そこにこそ、この問題の本質がある。各学校はもちろん、文部科学省や教育委員会、教員養成系大学は、教師や教師の卵に「あなたたちには権力があると自覚する必要がある」と研修などできちんと伝えてほしい。
さらにいえば、「大人と子ども」ではないが、日本中の会社や組織の中にも同じ構図がある。学校だけでなく「セクハラはどんな組織でも力の差から生まれる」と言っておきたい。