ここで1点確認しておいてほしいことがあります。「会社や部署が掲げるミッションなんてただのスローガンみたいなもので、どの会社にでも当てはまる抽象的な言葉じゃないか」と感じている人がいるとすれば、その認識は今すぐ改めなくてはなりません。

 ミッションを日本語にすれば「使命」や「存在意義」ですが、それは自分たちから宣言すればおしまい、というものではありません。仕事やサービスの提供先が「その宣言通りだ」と認めてくれてはじめて「ミッション」として成立するのです。

 私は以前の記事(「『ありふれたキャリア』から価値を見出す唯一のコツ」)の中で、「周りからもらえる『ありがとう』の声の中身こそが、それぞれの個人の持ち味であり、パーソナルブランドである」という説明をしました。これは、部署やチームにとっても同じ事が当てはまります。

 なので、仕事のミッションを見直すという作業は、現在担当している仕事を提供した時、相手がどう喜んでくれるのかを考えることから始めればいいのです。「どう喜んでくれるか」について、「どんな『ありがとう』の声をかけてもらうことが自分たちの存在意義なのか」と考えてみれば、分かりやすくシンプルな言葉で出てくるはずです。

 仮にあなたが経理部の一員だったとします。経理部門のミッションが「確実でミスがない経理」だったらどうなるでしょうか?

 そのミッションであれば、他部署のスタッフに対して、期日通りに正確な伝票書類の提出を求めることになるでしょう。その代わり周りからは「経理は難しい。手順通り書けと言われても分かりづらいし、質問しても専門用語を並びたてられて訳が分からない。その上、経費の処理では『NO』ばっかりだ」と思われてしまうかもしれません。これでは「ありがとう」の声は集まってきません。

 では、経理の仕事に社内の人たちが喜んでくれていたら、あなたたちはどんな「ありがとう」の声がもらえるか想像してみてください。

 それが「誰でも分かるように作業手順を簡単にしてくれてありがとう」という声だとしたら、例えば「サルでもわかる簡単な経理」という表現が経理部のミッションになります。

現状からではなく、ゴールから打ち手を逆算する

 ミッションが定まったら、「そのミッションを達成するには?」という視点から逆算して具体的な「打ち手」を考えていきます。この時、現状はいったん無視します。現状からの改善策を考えてしまうと、どうしても今の延長線上の打ち手しか出てこなくなるからです。

 アポロ計画で人類が月に行けたのは、飛行機を改善し続けたからではありません。月に到着するために必要なロケットの仕様を具体化し、その仕様を実現する視点から打ち手を洗い出していったからです。ミッションを実現するためには、周りから期待通りの「ありがとう」の声を引き出せるよう、ゴールから逆算して打ち手を出すのが早道なのです。

逆算して考えた打ち手以外の仕事は「ただのムダ」

 逆算して打ち手を考えたら、計画の実現に向けて、重要な打ち手からチーム内のメンバーに割り振っていきます。

「打ち手」をアサインする作業が終わったら、打ち手以外の仕事は全部廃止しましょう。「ミッションや目指す姿につながらない仕事はただのムダ」と整理してしまうのです。

 ここが肝なのです。ムダな仕事をしていた人も、新しいミッションから逆算した計画のアサインの計画に乗っていますから、「今までの仕事より、もっと重要な仕事をやって欲しい」という大義名分に納得感が伴います。そうなればすんなりとムダな仕事を止め、フレッシュな気持ちで、ミッション実現に結び付く仕事に取り組んでくれるようになるのです。

 働き方改革は、組織内のメンバー全員が「効率的な仕事」と「充実した私生活」「やりがいと成長」を手に入れるためのものです。「ありがとう」の声からミッションを再定義すれば、意外とスンナリ進みますし、実はこの手法は働き方改革を成功させている組織は必ず実施している打ち手なのです。逆に言えば、「現状改善」という従来の延長線上の発想から抜け出せないと、チームメンバーはなかなかムダな仕事から解放されず疲れ果て、働き方改革も失敗してしまうのです。