日本での認知度はまだまだ低いが、ヨーロッパの観光客には人気の「高原の水上リゾート」だ。ヤンゴンやマンダレー、世界三大仏蹟の1つ、バガンの観光を体験した人は、次はぜひインレー湖でのんびりしてほしい。数年前のことだが、私も長年の念願がかなってインレー湖滞在を実現することができた。

 インレー湖での移動はすべてボートだ。そもそも湖の入り口の町から、インレー湖の中心地までの移動がモーターボートで約1時間かかるのである。まるでヴェネツィアのような印象があるインレー湖は、「東洋のベニス」と呼ぶべきだと私は勝手に思っている。

 そんなインレー湖に滞在中に出かけた半日ボートツアーのことだった。ツアーで思わず「大日本帝国」と遭遇したのである。そのときの状況を振り返ると、こんな具合だった。

 ツアーボートが立ち寄った手巻き葉たばこの工房に、土産物屋が併設されていた。土産物屋のオバチャンが「どこから来たの?」と聞くので、「日本から」と答えると、「それならちょっと待って」といって店の奥に戻り、汚い札束を持って戻ってきた。

 そして見せられたのが、日本政府が発行した「軍票」だったのだ。

 お札には "THE JAPANESE GOVERNMENT、ONE HUNDRED RUPEE" と印刷されており、真ん中下には「大日本帝國政府」と横書きで右から左へと印刷されている。おお、と私は思わず声に出してしまった。まさか「大日本帝国」に遭遇するとは予想もしてなかったからだ。

ビルマで大日本帝国が発行した軍票の束(筆者撮影)
ビルマで大日本帝国が発行した100ルピー札の軍票(筆者撮影)

 オバチャンは、こんなのもあると次々に大日本帝国政府発行の軍票を出してくるので、私は1枚1枚手にとって子細に点検してみた。100ルピー札、10ルピー札、5ルピー札、1/2ルピー、10セントの5種類があった。そのうちあるものは使用されて汚く、あるものは未使用のままでキレイだった。 軍票に興味津々な私に、オバチャンは波状攻撃をかけてきた。現在はほとんど流通していない、アウンサン将軍(1915~1947年)の肖像画の入ったお札も多数出してきて見せるのだ。

「ビルマ建国の父」とされるアウンサン将軍の肖像が入った紙幣(筆者撮影)