講談社ノベルスも2段組みだったので、1段組みの文庫にするときに書き直しました。この場合、変えるのではなく、同じ感じにするために書き改めるわけですね。書誌学的には異本になるわけですから、書名に「文庫版」と付けています。『文庫版 姑獲鳥の夏』とノベルスの『姑獲鳥の夏』は同じ内容ですが別の作品なんです。文庫なのに「文庫版」とついていない作品は、直すのが面倒なので文庫と同じ文字組みで単行本を作ったものです。
一時期、2種類の組みを最初から意識して書いたらどうかな、と挑戦した時期があります。やったらできたんですけど、3倍ぐらい大変でした。だから5分の1ぐらい書いたところで、「普通に直した方が楽だ」と気がついてやめました。パズルみたいなものですね。
後は記号の問題もあります。デビュー作では3点リーダー「……」を使っていました。本ができたときに見て、すごく恥ずかしかったんですね。これ、読めないですよね。読めない文字としては、句点、読点、カギ括弧なんかがありますが、これは記号として必要です。でも3点リーダーは要らないんじゃないのと思いました。
さっき言ったように作品のタイプによって基準が違うので、小説のタイプによっては文字以外のいろいろな記号も平気で使います。でもデビュー作(『姑獲鳥の夏』)はそういう小説じゃなかった。3点リーダーは邪魔だったので、その後のシリーズでは廃止しました。
ただ、やはり間を持たせたいところはあります。過去にセリフとして出てきた部分や、回想の中で誰かがしゃべったところを同じカギ括弧で書くと区別がつきません。苦慮の結果、4つめの記号として、2倍ダーシ「――」だけは許容することにしました。前の文とあとの文の間に若干インターバルがある場合や、関連がある場合、含みを持たせた終わり方、過去のセリフや視点人物の心的な言語などを書くときに、レベルに応じて使い分けています。