「これらのボルダーは落ちてきたものか、リュウグウ内部の深いところから突き出してきたものかを区別して考えることが大事」(渡邊氏)。「何種類かの岩塊がある可能性があり、それぞれの岩塊がどうできたかに関わる。リュウグウの母天体に由来する可能性もあれば、他天体と衝突してできた可能性もある。衝突でできた場合は、C型小惑星の上にS型の岩があってもいい。そういう天体も見つかっています」

 ボルダー母天体説は東大の杉田教授が押しているようだ。リュウグウのような小さな小惑星は、かなり最近(数億年以内)に母天体から分裂して生まれたと考えられ、今後見えてくる岩塊の模様や構造、組成などにより母天体の起源を知ることができるだろうという。母天体は太陽系の年代に近い可能性が高く、太陽系の進化や起源について議論できる。「これは探査しがいのある星だ」と杉田教授は期待する。

小天体の地球衝突を避けるために

 これらサイエンスの成果も非常に楽しみだが、リュウグウは、私たち地球人にとっても大事な情報を与えてくれそうだ。それは「プラネタリ―ディフェンス」、天体衝突から地球をいかに守るかという問題だ。

220~100kmの距離から見たリュウグウ。(提供:JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)

 約6500万年前に恐竜が絶滅した原因に小惑星衝突が推定されるなど、地球に小惑星が衝突すれば大きな被害が予想される。しかし「小惑星を発見さえできれば、約50年先の軌道が正確に分かります。小惑星の性質が分かれば、小惑星が地球に衝突前にインパクター(構造物)を衝突させ、小惑星の軌道を変えることで、衝突を回避できるでしょう」と吉川真ミッションマネジャーは説明する。

「リュウグウは地球接近型C型小惑星です。その組成や密度、構造を調べることで、もしC型小惑星が地球に接近したときにどんなインパクターをぶつければいいか、知見が得られる」(吉川氏)。地球接近型C型小惑星は数が少ないため、貴重なデータがとれるだろう。