戴社長が段上から降り、会場の株主達と握手して回ったのだ。

 私の席は前から3列目だったため、戴社長は私の眼前にも手を差し出してきた。その手を握りながら、私は「頑張ってください」と声をかけていた。シャープを経営分析してきたことと、OBとしての愛社精神から、自然にその言葉が口をついて出たのだ。

 ふと我に返った私は、自著である『シャープ「企業敗戦」の深層』と、同書の台湾語翻訳版の2冊を、戴社長に手渡した。

「本人ですか?」

 戴社長からの質問に私は頷いていた。

 多くの株主が、戴社長のフレンドリーな行動に心を掴まれたようだった。

IoTと8Kが二本柱

 午後からの「経営説明会」にも参加した。

 戴社長の挨拶後、橋本氏が、2017年5月に発表した「中期経営計画」を基に概要を説明。

 ここで強調されたのが、「8KとAIoTで世界を変える」のスローガンだった。

「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」がこれからのシャープの二本柱になるという。

 8Kは高精細の映像技術だが、「8Kエコシステム」として、放送・映像分野だけではなく、医療やセキュリティ分野への事業展開も進める。

「AIoT」は、AIとIoTを組み合わせたシャープによる造語だ。ロボット型スマートフォン「ロボホン」や音声設定が可能なウォーターオーブン「ヘルシオ」のように、AIとIoTを融合させた事業を、機器だけでなく、サービス、プラットフォームとして展開していくという。東芝PC事業の買収もこの戦略上のものだという説明だった。

 その後、株主との質疑応答の時間が設けられた。

 ここで私は、東芝のPC事業の買収に関して質問する機会を得た。

「東芝のPC事業を買収する目的は、AIoT人材の確保がメインと説明されているが、PC事業はビジネスとしても重要ではないか。会社はPCビジネスをどう考えているのか?

 シャープと鴻海は補完関係にあり、価値を生み出せるはずだ。だがここまでの説明に、シャープと鴻海が組んだ時に価値を生み出すという話が、全くなかった。シャープと鴻海の提携をどのように考えられているか?」

 この質問に答えたのはAIoT戦略推進室長で欧州代表も兼ねる石田佳久副社長だった。