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(文:大西 康之)

 シャープの元副社長、佐々木正氏が2018年1月31日に亡くなっていたことが、2月2日に公表された。102歳だった。カシオ計算機との激しい電卓開発競争の中で、現在もパソコンやスマートフォンで使われる半導体、MOS(金属酸化膜)LSI(大規模集積回路)や液晶パネルの実用化に道を開いた。カリフォルニア大学の学生だった孫正義氏が発明した自動翻訳機を1億6000万円で買い取って起業のきっかけを作った「大恩人」としても知られる。

 佐々木氏の102年の人生はあまりに多くの功績に彩られており、「略歴」だけでもかなりの長さになってしまう。

MOS LSIでNASAから「アポロ功労賞」

 1915年、島根県浜田市に生まれた佐々木氏は、幼少期に台湾に渡り、19歳で京都帝国大学(現京都大学)に進むまで台北で暮らした。台北第一中学時代には、台湾代表として全国中学野球大会(現在の高校野球=甲子園)に出場している。

 真空管技術者として、戦闘機の「紫電改」で知られる川西機械製作所(後の神戸工業、現在のデンソーテン)に入社し、戦時中は陸軍登戸研究所でレーダーの開発に従事した。

 戦後、日本の通信網を改良するためGHQ(連合国総司令部)の命令でアメリカに渡り、当時ベル研究所の技術者だったウィリアム・ショックレー、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテン(後に3人ともノーベル物理学賞を受賞)から、まさに開発中だった「トランジスタ」の存在を知らされる。帰国後、神戸工業の社長に進言し、いち早くトランジスタの開発に着手した。

 1964年、シャープ創業者の早川徳次(故人)、2代目社長の佐伯旭(故人)に説得され早川電気工業(現在のシャープ)に移籍する。「電卓戦争」と呼ばれたカシオ計算機との激しい開発競争の中、小型化を進めるためMOS LSIの実用化を決断。シャープが1969年に発売した世界初のMOS LSI電卓は、5年前に比べ重さが18分の1、価格は5分の1になり、電卓の爆発的な普及につながった。

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