そこでイギリスの機関投資家から、中国工場での過重労働問題を追及されたと報じられている。中国の労働法では時間外労働を1カ月36時間までとしているが、月80時間以上の事例があったという。鴻海は「調査し誤りがあれば改善する」としたようだ。
実は以前から鴻海には、過重労働や低賃金などの問題が存在していた。
大幅賃上げをせざるを得なかった鴻海の深圳工場
2010年には、わずか4カ月の間に、計13名もの従業員が、鴻海の深圳工場や社員寮から飛び降り自殺を図り、死者10人、重傷3人を出すという惨事が発生。国際的に注目される大事件となった。
私はこの件に関して、『覇者・鴻海の経営と戦略』の著者で、鴻海の経営に詳しい熊本学園大学の喬晋建教授に話を聞いたことがある。
「自殺の動機と真相は完全に解明できなかった。このため、企業側への不満が自殺の原因であるとは断言できません」
喬教授は慎重に言葉を選んで話した。
「かつて鴻海は労働条件の良い工場として知られていました。周辺の他工場と比べて生活条件も収入も良いという評判が広がり、鴻海の求人に大勢が殺到していたのです」
しかし、いつしかそのイメージと現実との間に大きなギャップが生じていた。
多数の自殺者を出した鴻海は、地に落ちたイメージを改善し、従業員を引き付ける対策に出た。
「大幅な賃上げに踏み切ったのです。2010年6月、基本給を深圳の法定最低賃金である900元から1200元に引き上げました。さらにその数日後、追加の賃上げを発表したのです。2010年10月1日から基本給を1200元から2000元に引き上げるという内容でした」(喬教授)
それでも、まだ株主から指摘があるように、鴻海の労働環境は良好とはいえないようだ。
鴻海は、この過重労働の問題に加えて、スマホ需要の減速によりメインビジネスである受託生産サービス(EMS)が伸び悩み、株価低迷に見舞われている。また、先に述べたように、中国でのシャープの液晶テレビ販売のため、販促費の負担が膨らんでいる。
シャープと鴻海。両社の理想的な補完関係を発展させ、「国際垂直統合」だけでなく、お互いの長所を生かし共同で価値創造する「共創」による、健全で創造的な提携関係を築いていくことを期待したい。