小林さんは、ミャンマー人の幹部候補生たちに「将来はあなたがここの社長になりなさい」「君はゆくゆく工場長になる身だからね」と折に触れて声をかけるようにしている。

 ミャンマーで仕事をさせてもらっている以上、将来的にはミャンマーの人が主役の企業になるべきだと考えているからだ。

 「企業を持続的に存続させるためには、固定費の高い日本人をいかに減らしていくかが課題」だと話す小林さん。最終的には、日本人駐在員がいなくても会社を運営できるようになってほしいと願っている。

 そのため、何か計画通り進まないことがあった時に、ミャンマー人社員が「ここはミャンマーだから仕方がない」などと発言すると、厳しい言葉が飛ぶ。

 「それを言ってしまったら何も始まらないでしょう」「本当にそれでいいの?」

 「自分の国のことや、同胞の人たちのことを、諦めたり、蔑んだりするようなことは言ってほしくない」からだという。

 「お客様のニーズに合わせて資材を配合する配合計量は、ゴムメーカーにとって最も重要な工程であり、その割合は企業秘密。ラーメン店におけるの出汁と同じで、絶対に明かせません」

 「軽量した材料は、うどんやパスタ生地のように練り、麺を切るようにカッティングしていくんです」

 素人にも分かりやすいように比喩を多用した説明は茶目っ気たっぷりでもある。

 また、「ミャーナックの〝ミャー″を猫の鳴き声になぞらえ、昨年から肉球のイラストをロゴに入れました」と言う。

 こうした分かりやすく楽しい表現ができるのは、仕事への愛が人一倍強いからでもある。ミャンマーでは、社員の緊張をほぐし前向きに仕事を進めるは、こうした遊び心が大切だという。

 冒頭の出家のエピソードも、もとはと言えば「経験な仏教徒の多いこの国で僧侶にモノづくりの心構えを説いてもらえば、社員たちも誠意をもって仕事に向き合うようになるのではないか」という着想から始まったのだという。

 日本人の指示を聞くだけでなく、自ら主体的に、誇りをもって仕事に取り組める人材を育成するためには工夫を惜しまない

 明るく人間味あふれる小林さんなら、トップバッターとしての試練の数々も、必ずや軽やかに乗り越えていくに違いない。