セットアップ業務に奔走

 「初めてミャーナックの設立構想を耳にしたのは、2014年頃だったでしょうか。当時はインドネシアに駐在していたこともあり、まさか自分がミャンマーに赴任することになるとは思ってもいませんでした」と小林さん。

 5年に及ぶインドネシアのネシナック勤務を終えて帰国した時、「これでしばらくは落ち着いて日本にいられる」と考えていた。ところが、わずか1年後に上司からミャンマー行きを打診された。この時はさすがに驚いたそうだ。

 工場の建設から人材の採用まで、初代社長には2代目以降にない苦労がある。そのため、海外経験豊富な社員でも、初代にはなりたがらないのが普通だ。

 しかし、小林さんは違っていた。自らのポリシーに照らして考えた時、断るという選択肢はなかったのだ。

 「セットアップ業務はトップバッターしか経験できない。これはチャンスだ。やってみよう」

 実際にミャンマーへ来てみると、文字通りゼロからスタートしたティラワSEZでの立ち上げは、頭で考えていた以上に大変だった。

 まず、原材料の調達すらスムーズには進まなかった。同社のゴム部品の原材料はほとんどが石油由来の化成品だが、ミャンマー国内では製造されていないため、近隣国から輸入するしかない。

 しかし、現状では日本から大型コンテナ船がティラワ港に直接入港することができないため、海上輸送の場合はシンガポールなどで小型のフィーダ船に積み替える必要があり、その分、余計に時間がかかる。

 少しでもリードタイムを短縮することでコストに直結する在庫を減らしたい製造業にとっては、切実な問題だ。また、銀行手続きにも手を焼いた。

 海外の仕入れ先に原材料の購入代金を送金するのにも、見積書、注文書、パッキングリスト、輸入許可書など、様々な書類を揃えて取引銀行に提出したうえで、ミャンマーの中央銀行の承認を得る必要があったのだ。