2005年「世界物理年」日本委員会で幹事を務めさせていただいた折などにも、こうした話題で中学高校生向けの企画を考えるなどしたことがあります。

 ローカルには周期性がありながら、グローバルには並進対称性を持たない「準結晶」が超伝導転移するというのはいったいどういうことか?

 最初に考えたのは、ジョセフソン接合のネットワークのように、ローカルな超伝導電子が準周期的構造の中でカップリングし合うようなピクチャーで、もちろんそれが合っているかどうかは分かりません。

 「異なる超伝導状態」がリンクし合う系、あるいは「超伝導状態そのもの」が「歪んで」存在している状態など、考え始めると、面白くて本当に興味が尽きません。

 仮に準結晶構造をどんどん小さくしていって、少数の金属原子からなる系を作り、極低温で作動する走査型トンネル電子顕微鏡(STM)のようなシステムで観測すれば、こうした「変わった超伝導現象」の新たな本質が明らかになる期待は高いと思います。

 30年前に卒業研究をご指導いただいた小森先生は現在東京大学物性研究所で副所長を務められ、極低温STMで大きな成果を多数挙げておられます。

 学内/物性研の友人たちと準結晶の超伝導転移について、あれこれ雑談的な議論をしていますが、現状ではまだSTMで到達可能な温度が高く、準結晶の超伝導状態をダイレクトに見るには、もう少し技術の進展と時間が必要かと思われました。

 しかし、逆に言えば、一定の限られた時間で克服可能な課題でもあって、こうした自然界の本質を新たに暴き出す実験が可能であるのも間違いありません。

 日本の基礎研究は弱くなったといった議論を、論文の出版数の何のという2次的な指標でうんぬんする風潮を私は率直に好みません。中身がないから・・・。

 そうではない、本当に見出されたファクトそものもが重要なのであって、それらの真贋を見抜く「自然科学の目」こそが重要なのだと思います。

 「日本発の新しいノーベル賞候補」の1つとして、準結晶の超伝導転移、東北大学蔡教授の名とともに記したいと思います。

 蔡先生の場合は台湾出身で日本で学び、日本を舞台に準結晶という物質を確立してくださったわけで、本当に、本当に、日本のためにもありがたい研究者であると思います。

 改めて、名古屋大学はじめ当該研究グループメンバーの絶大な努力に賛辞をお送りするとともに、こうした真の本質的基礎研究の灯を大切に伸ばし、育てるガバナンスの重要性も、同時に指摘しておきたいと思います。