さて、世の中にはこういう充填とは別に、平行移動では決して重なり合わない、面や空間の充填の仕方があります。

 例えば、イスラム教のモスク建築には、壮麗な幾何学模様のタイル張りの埋め尽くしが見られます。

 いくつか例を挙げて見ましょう。

 例えばこういうもの(参照=https://en.wikipedia.org/wiki/Girih_tiles)はギリーと呼ばれます。英文のイスラム文様のウィキペディアには、尖塔の屋根を埋め尽くす曲面パターン(参照=https://en.wikipedia.org/wiki/Islamic_geometric_patterns)なども紹介されています。

 あるいはこんなもの(参照=http://archive.aramcoworld.com/issue/200905/the.tiles.of.infinity.htm)もある。

 最後のリンクには、こうしたモザイクの幾何学模様を数学的に整理した英国の数理物理学者ロジャー・ペンローズ(https://en.wikipedia.org/wiki/Roger_Penrose)の名が挙げられています。

 ペンローズは1974年、2種類のひし形を組み合わせて空間を充填しながら、決して平行移動では重ね合わせができないパターンを見出し発表します。

 「ペンローズ・タイル」と呼ばれるパターンで、非周期的でありながら空間を埋め尽くす特異な幾何学構造として注目を集めます。

 ペンローズとエッシャーの間には親交があり、ペンローズの見出した数理構造に影響を受けた作品をエッシャーは発表しましたが、残念ながら版画家は1972年に亡くなってしまいました。そのためペンローズ・タイルの幾何を応用した作品は残されていません。

 しかし、「サークルリミット」と題された作品群(参照=http://www.mcescher.com/gallery/recognition-success/circle-limit-iv/)のように円の内部を自己相似なパターンで埋め尽くしていく図案には、イスラムのモザイクに源流をもち、のちのフラクタル幾何学などにもつながる、ペンローズ・タイルとよく似た発想を見ることができます。

 こうした充填は、しかし幾何学的対象、あるいはモスク建築のタイル貼りなどには見出せても、自然界の物質として安定に存在するとは考えられていませんでした。