ノーベル賞を受けた「準結晶の発見」
ペンローズの幾何学的議論から8年後の1982年、ワシントンDCでサバティカルを過ごしていたイスラエルの科学者ダニエル・シェヒトマンは、アルミニウムとマンガンの合金を急速に冷却すると、普通の結晶とは異なり、ペンローズ・タイル同様に並進対称性を持たない結晶構造の物質状態が出現することを見出します。
完全に周期的ではないけれど、でも空間全体を埋め尽くす、こうした物質構造のパターンは「準周期性(quasi-periodicity)」と名づけられ、このような固体が「準結晶(Quasi crystal)」と呼ばれるようになります。
当初の準結晶は熱的に不安定で「焼きなまし」すると簡単に普通の結晶状態に戻ってしまうものでした。しかし東北大学金属材料研究所の留学生大学院生だった蔡安邦(現・教授)によって次々と熱的に安定な準結晶が発見されます。
自然界には並進対称性を持たないけれど高度な秩序を持つ、イスラム・モスクのタイル貼りと似たような構造の物質が存在する事実が確認されました。
ダニエル・シェヒトマンは「準結晶の発見」により2011年のノーベル化学賞を単独受賞しています。
従来まったく知られていなかった、新しい安定な物質の存在形態を知らしめた大業績で、ノーベル賞の受賞は全く妥当と思います。
また、個人的には、間違いなく共同受賞の候補に挙げられていたはずの蔡教授にも、明らかにノーベル賞受賞の資格はあったと考えます。
超伝導はどのように解明されているか?
さて、今回の名古屋大学の業績は、このような「イスラム・モスクのタイル貼り」準周期構造を持つ物質が「超伝導状態」を示した、という報告です。なぜこれがそんなに凄いのかを考えてみましょう。
ニクロム線が分かりやすいですが、金属は電気を流すと熱を発します。こうした発熱、つまりジュール熱は、電子の流れが金属結晶の「格子」とぶつかり、それを振動させることによって発生すると理解されています。
超伝導現象とは、こうした金属を絶対零度近くまで低温に冷やしていくと、突然「ガクン」と電気抵抗が消えてしまい、いつまでも電気が流れ続ける(永久電流)まさに「スーパー」な状態になってしまうことを指しています。