後部に爆弾が命中して炎上する戦艦大和(1945年4月7日、写真:月刊丸/アフロ)

 7月16日 米国のワシントンポスト紙に、不穏なタイトルの記事が掲載されました。

「トランプ同盟者、防衛のためのAI『マンハッタン計画』起草を指示」した、というのです。

 ご存じの通り「マンハッタン計画」とは、日本に投下された原子爆弾を製造した軍事プロジェクトの名前です。

 元々はナチス・ドイツを標的に、欧州からの亡命科学者を糾合して原爆を開発した米国・英国・カナダの国際軍産学共同の計画でした。

 ですが、1945年5月、まだ原爆が完成する前にナチス・ドイツは降伏してしまったので、振り上げた拳を下ろす先がなくなった連合軍は、原爆の実験場、かつ戦後のパワーバランスに向けての示威行為として、ヒロシマ、ナガサキに予告なしに異なる2つのタイプの原爆を投下、比較する実験を行ったことは、広く知られる通りです。

 もし、トランプ候補が大統領に就任した後にも、こんな不謹慎な命名を継続するようであれば、本来なら日本は大大的に抗議すべきでしょう。

 しかし、現状を察するにあまりあてにはならなさそうです。そのような折には、適切な国際機関から良識ある指摘がなされることを期待します。

 畏友の広島国際大学・石原茂和教授は、このような動きを、かつて第2次世界大戦中に米国政府が軍事研究向けに設置した「アメリカ科学研究開発局」の再来と見る観点を提示されました。

 確かに一理ある見解であるのは、ワシントン・ポストの記事からも頷けるところです。

「AI分野でアメリカファーストを実現」(“Make America First in AI”)「(バイデン民主党の準備した)負担の大きい左翼的大統領令規制」の撤廃(“We will repeal Joe Biden’s dangerous Executive Order that hinders AI Innovation, and imposes Radical Leftwing ideas on the development of this technology,”)など、冷戦期に核軍備で優位に立ったのと同様、「米国がAIで世界を席巻」というシナリオが見て取れます。

 しかしまた「AIマンハッタン計画」草案では、様々なAIモデルを「評価」、外国の脅威からシステムを保護する機関の「業界主導」での設立(The framework would also create “industry-led” agencies to evaluate AI models and secure systems from foreign adversaries.)にも言及されており、原爆開発とは大きく異なる側面も指摘する必要があるでしょう。

 こうした動きは、現在すでに軍のAI開発に関係している企業をはじめ、シリコンバレー経営陣全体を共和党~トランプ支持に引き寄せる、選挙前の一種の「見せ金」的な意味合いも必然的に持ってしまっている。

 さて、こうした利益誘導的な面は横におくとして、「アメリカ・ファースト in AI」という政策、ないし戦略はどの程度有効なものでしょうか?

 先に結論を言ってしまうと、かつての「建艦競争」的夢想、つまりドレッドノートだ、オライオンだと、超ド級巨大戦艦を建設、保有することが「ファースト」だと思い込み、「大和」「武蔵」の無意味な轟沈とともに終焉を迎えた、100年前の時代錯誤の二の舞になるオチが見え見えと判断されるのです。