加藤登紀子さんのチャリティコンサート(筆者撮影、以下同じ)

 このところ、都知事選や兵庫県のパワハラなどの話題が続きましたので、一服の清涼に加藤登紀子さんの「安田講堂」での能登チャリティコンサートの話題を、側面や舞台裏を含めお届けしたいと思います。

 報道もされていましたが、フランス革命のバスティーユ牢獄襲撃記念日、いわゆる「パリ祭」の7月14日、東京大学安田講堂で「能登半島地震被災者支援チャリティコンサートが開かれました。

 プログラム前半は、東大の学生オーケストラOBによるモーツァルト「交響曲第40番」などの演奏、後半は新曲披露も含めた加藤登紀子オンステージ、という2時間のプログラム。

 心深く残るコンサートでしたが、中でも最も感銘を受けたのは、今日初めて披露するという能登に捧げる新曲「風が吹いています」を、楽譜も歌詞も見ることなく、弾き語りで初演されたことです。

 80歳。

 失礼ながら、一般的には長年慣れ親しんだ楽曲でも、歌詞を忘れていないか不安で全く不思議ではないご年配です。

 我々舞台人は、1回の演奏でもそこに至る過程で払われた努力の質と量を察します。

 加藤さんのステージは、正味で一曲一曲完全燃焼、まさに命がけで歌っておられ、このように密度の高いパフォーマンスは、本当に久しぶりのことで、感銘を受けました。

(私が「題名のない音楽会」の監督をしていた時代は、コンスタントにポップスの仕事もしていましたが、そういう鬼気迫るものを感じたのは和田アキ子、萩本欽一、松崎しげるなど、限られた方しか思い当たりません)

個人の発意で満席、「チャリティの安田講堂」

 私は関係者からの情報で、チャリティのつもりで参加しました。

 しかし、実際に当日会場に足を運んでみると、事前の告知が功を奏したのか、入口には長蛇の列、中に入ってみると講堂内も満席の盛況でした。

 25年ほど前、私が大講堂改修委員というものを務めた頃の数字で収容人数1300人の安田講堂(正式名称は「東京大学大講堂」)ですので、少なく見積っても1000人は集客、そこそこまとまった額の寄付金が、能登の被災者救済に届けられることになるかと思われます。

 政府の対策後手が指摘される中、こうした純然たる民間、個人の厚志に発する寄付、国際的には「ドネーション」と言われますが、こうした慈善が行われるのは何よりと思います。

 特に今回の催しは、完全に「個人」が「厚志」で始めたものです。

 これを「やろう!」と言い始め、ラフマニノフが愛用したピアノを運び込むなど、話題作りの細部まで心を砕かれたのは、スタンフォード大学タウベ研究所長の長谷川泰さん。

 泰さんは私には中学・高校・大学の直接の先輩にあたり、ここに至る経緯など関係者から詳しく伺うことができました。

開演直前でも長蛇の列が続いた安田講堂(2024年7月14日)

 政府が後手にしてちっとも手をつけない、しかし本当に大切なことに全くの個人が厚志をもって集まり、きちんと成果を上げて、被災地に意味ある貢献がなされる・・・。

 これこそ本当に価値ある、人類へのプレゼントだと言えるでしょう。