1911年、オランダの物理学者カマーリング・オンネスが水銀などの金属でこれを発見、2年後の1913年にノーベル物理学賞を得ています。

 超伝導現象の解明は20世紀前半、理論物理学最大の難問の1つでしたが、1956年、ジョン・バーディーン(「B」)をリーダーとするイリノイ大学の理論グループがモデルを提出、バーディーンはこの年、1948年にAT&Tベル研究所で開発したトランジスタの業績で1個目のノーベル物理学賞を得ていました。

 ここにプリンストン大学から招聘した助手レオン・クーパー(「C」)と大学院生のロバート・シュリーファー(「S」)の2人が加わって確立された「BCS理論」によって、今日標準的な超伝導現象の理解が確立します。

 BCSの3人は1972年、この業績によってノーベル物理学賞(バーディーンとしては2個目で、現在までノーベル物理学賞を2つ得た人はバーディーンしかいません)を受けています。

 このバーディーンたちの仕事に決定的な影響を与えたのが、日本の理論物理学者、中嶋貞雄先生の仕事でした。

 中嶋先生は、東京教育大学の朝永振一郎教授が確立した「くりこみ理論」(1965年ノーベル物理学賞受賞)を固体結晶に応用する「電子フォノン理論」の研究を進めていました。

 たまたま来日してこの講演を知ったバーディーンは、より詳しい論文を中嶋先生に求められ、金属結晶中の「電子」と、金属結晶格子の振動がランダムな熱振動ではなく量子力学的な秩序を持った「フォノン」として電子とカップリングするというアイデアを発展させます。

 通常状態では金属結晶とぶつかってしまう電子が、ある温度以下に下がり、ジャングルジムの振動が秩序性を持つと「フォノンの衣を着て」結晶格子とぶつかることなく、スイスイと結晶内を長距離にわたって量子力学的に伝導できるようになってしまう・・・。

 こうしたピクチャーが確立されて、すでに60年ほどの年月が経過しています。

 金属結晶が超伝導状態を示すのは、結晶格子の周期性がフォノンという秩序だった格子振動を作り出すためですが、今回の人類史的大発見(と私は思います)は、これを「準周期系」にまで拡大するという、大変大きな意味を持っています。