これらの「協働機関」のほか、自治体や企業など31の「協力機関」もある。協力機関の一つとして多摩美術大学とも連携している。先端技術の製品化や市場での製品訴求力と、デザインは切っても切れない関係にある。多摩美大との連携では学生の相互交流を図り、起業家の知見としてプロダクトデザイン力を養う。例えば、リーンスタートアップに欠かせない「MVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)」を開発するための、プロダクトデザインのノウハウを習得する。顧客に価値を提供するうえで必要不可欠な機能を見極め、最小限の機能をしっかり盛り込んだ製品イメージをアーリーアダプター(初期採用者)に提示するための表現力を養うことができる。
出口まで見据えいったんは解散する
実践教育を重視しているWASEDA EDGE-NEXTの最大の特徴は、「教育のための実践」と「実践のための教育」を一貫して提供するカリキュラムであり、実際に起業を体験できる点である(図1)。
起業経験のない人がゼロから事業を始め、次第に成長させていくプロセスを山登りにたとえるなら、「教育のための実践」は練習登山の位置づけになる。ターゲットとする大きな山の頂を目指す前に、練習でターゲットより小さな山登りを敢行する。つまり、創出したアイデアの事業化に向けた仮説検証を経て資金を準備し、現実に会社を設立して事業をスタートしてみる。そして一定期間の後に会社をいったん解散する。
事業がうまくいっても解散するのか。そんな疑問がわくかもしれない。教育機関だからこそできることかもしれないが、答えはYesである。「教育のための実践」は下山するまで、すなわち出口まで考えて起業の練習をするプログラムなので、始めた事業の成長が見込めても見込めなくても、会社を解散する。海外の先駆的な大学の中にはすでに起業体験プログラムを進めているところもあるが、事業成果そのものよりも事業化プロセスの質を高め実践経験を得ることに注力している。多くのチームが小回りのきくビジネスを展開して短期間に利益を出しており、大きな失敗には至らないそうだ。