出所:AdobeStock出所:AdobeStock

 日本企業へのランサムウエア攻撃が止まらない。被害規模は年々拡大し、上場企業が業績見通しの修正を迫られる事態も相次いでいる。その中で被害の全貌が明らかにされるケースはまれだが、詳細な被害内容や復旧過程の公開を決断した企業も存在する。物流代行を手掛ける関通の達城久裕社長は2025年6月、著書『サイバー攻撃 その瞬間 社長の決定』を出版し、2024年9月に遭遇したサイバー攻撃の実態を明らかにした。同社はどのような被害に遭遇し、いかにして復旧を進めたのか、同氏に話を聞いた。

在庫データが喪失し、全ての出荷業務が停止した

――著書『サイバー攻撃 その瞬間 社長の決定』では、自社が経験したサイバー攻撃と、その後の対応について赤裸々に語っています。どのような理由から著書を出版したのでしょうか。

達城久裕氏(以下敬称略) 当社は約10万坪の倉庫を擁し、EC事業者や通販事業者のお客さま向けの物流サービスを展開しています。またECに関わるバックヤード業務、受注処理やコールセンター業務の一部受託、倉庫管理システム(WMS)などITツールの販売をしています。

 2024年9月に経験したサイバー攻撃では、お客さまからお預かりした1千万件以上の在庫データが喪失し、1日数十万個の出荷が全てストップしました。さらに、その復旧には多額の費用と時間を要しました。これまでの私の人生で最悪の経験と言えます。

 しかし同時に「他の会社に同じような被害に遭ってほしくない」という思いから、この経験を世の中に広める必要がある、と考えていました。

 サイバー攻撃の被害に遭った企業は情報を開示しないケースが多く、そこからお客さまや消費者への疑念につながることも少なくありません。その点を払拭するためには、遭遇した出来事を隠すのではなく「共有すること」が大事だと考えています。

 そこで当社では書籍を通じて世に伝えることが適切だと考え、本書の出版に至りました。