10年ほど前だろうか、駅の改札を出るとテーブルの上に大量の巻き寿司が置かれ、販売されていて、何事だろうかと驚いたことがある。それが「恵方巻き」なるものだということを後で知った。“節分の日にその年の恵方に向かって、巻き寿司を切らずに、黙って一本丸かじりすると幸運に恵まれる”というのである。

 何を信じるかは、人それぞれが勝手に決めれば良いことであり、それをとやかく言うつもりは毛頭ない。私は、馬鹿らしくて信じる気にもなれなかったが、以来、コンビニでもスーパーでもデパートでも大々的に宣伝され、販売されるようになった。今では、節分の一大行事であるかのようになっている。

 この意味不明の習慣が大阪の一部にあったと聞いたが、大阪に住んでいた私も、大阪で生まれ育った妻もそんな習慣など聞いたこともない。

 ちなみに、あと10日余で満70歳になる私だが、小学生、中学生時代の遠足、運動会、学芸会での弁当は、巻き寿司が一番のご馳走だった。関東で言う太巻きである。母は巻き寿司が得意で10本ぐらいなら、あっという間に巻き上げていた。その隣で見ている子どもの私は、1本取り上げて丸かじりするのが常だった。何かあれば巻き寿司がご馳走だったので、1年に何度もそういうことがあった。節分も、恵方も関係はない。だからといって不幸に見舞われたわけではない。