2015年にグッドデザイン賞を受賞した「腹腔鏡手術トレーニング機器」(グッドデザイン賞HPより)

 医療現場の困りごとから製品開発をする医工連携が広まり、異業種のもの作り企業が続々と参入する。

 今回、取材した寿技研もその1社で、医療関連の製品開発を始めて5年目になる今年は、植物性食品原料でリアルな模擬臓器を開発した。

 これを使って医師らは、針や糸で縫ったり、電気メスで止血や切開、超音波メスで患部を切除したりなど、様々な練習を行える。

 原料については言及を避けながらも、動物愛護意識の高まりや廃棄処理の観点から動物にも環境にもやさしいと国内のみならず、米国の学会でも評価されている。

 寿技研は、ミニ四駆などのラジコンのタイヤを製造する埼玉県の下請けの町工場。1984年の会社設立から金型製作や金属部品加工を手がけてきた。

 そんな同社が、なぜ模擬臓器を開発することになったのか。医工連携の人材を育成する「さいたま市メディカルエンジニアリング講座」で講演した同社社長の高山成一郎さん(49歳)に、その背景を聞いた。

植物性食品材料で人間の臓器をリアルに再現  

臓器モデルの試作品の性能を確認する千葉大学フロンティア医工学センター川平洋准教授(左)と中村亮一准教授(右)。神妙な面持ちで見守る寿技研の高山誠一郎さん

 今年発売した模擬臓器は、千葉大学フロンティア医工学センターの中村亮一准教授と川平洋准教授と共同開発した。

 「あったら助かるモノってありますか?」という高山さんの問いかけに、「安くて管理も簡単な模擬臓器であれば、病院にも医師にも喜ばれるかもしれない」と中村准教授が答えたことで製品開発が始まった。

 様々な原料を配合して試作品を作っては中村准教授と川平准教授のもとへ足を運び、電気メスで切るなどのテストを繰り返した。国や埼玉県の補助金を獲得しながら、2年半でようやく素材を特定して実用化に成功。販売に漕ぎ着けたばかりだ。

 素材を決めるにあたっては、臓器の感触、電気メスなどの使用感などを独自に研究した末に、 「スーパーに並ぶような食材から本物に近い模擬臓器が作れるのでは」という発想に至った。