都内で耳の仕組みを説明するDCCの國司哲次社長

明瞭な聴こえを実現する骨伝導補聴具が登場

 「耳を作ってもらうよりこれが欲しい」

 生まれて初めて明瞭な音楽を聴いた高校1年生の少女は、「働いてお金を貯めて、来年には耳を作ってあげるからね」という母親にそう答えた。

 この女子高生は6000~1万人に1人が発症するとされる先天性小耳症を伴う外耳道閉鎖症の難聴を患う。生まれつき両耳とも耳の穴(外耳道)が形成されておらず、補聴器をつけることができない。

 加我君孝・東京大学名誉教授(国立病院東京医療センター・臨床研究(感覚器)センター名誉センター長)は、外耳道形成、鼓膜形成、耳小骨形成の第一人者だ。

 従来の補聴器よりも10万倍の音情報量を得られる磁歪素子を使う骨伝導補聴具を開発するディー・シー・シー(DCC、東京都文京区)の國司哲次社長と、外耳道閉鎖症の難聴児向けに補聴具を共同開発している(参考:「ゴールボールで日本女子金メダル、男子も銅メダル」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50920)。

 共同開発は、國司さんが、鼓膜がなくても耳栓をしていても聴こえるヘッドホン型補聴具を開発したことがきっかけだった。

 2013年に臨床データを集めるために厚生労働省の「障害者自立支援機器等開発促進事業」の採択を受けて、加我名誉教授の指導のもと、1年がかりで症状が異なる高度難聴者40人に試聴してもらった。このうち8割の患者に効果が認められたことから、難聴児向けの開発が始まった。

 加我名誉教授から開発条件として「左右の耳がいかなる形状であっても両耳装用が可能であること」「従来のカチューシャ型のヘッドセットより使いやすいこと」が提示された。

 これを開発するに際して2015年に厚生労働省から助成を受け、1×3センチほどの2枚の樹脂に球状の振動部を組み込んで、医療用接着材で張りつける「コンタクト方式」を開発した。

 2016年1月に加我名誉教授が開催した患者と家族の会で、10数人の難聴児がDCCの骨伝導補聴具「プレスティン」で音楽を視聴した。この時に、前出の女子高生も参加していた。