企業は時代や市場の変化に合わせて古い事業を捨て、新しい事業を開拓していかなければならない。この時、新しい事業を行うたびに新規雇用を増やしていては、企業はたちまち余剰人員を抱えてしまうことになる。好景気で増産するという場合も同様である。人手が足りない時に、安易に人を増やしてしまうと、不景気の時に人件費が経営を圧迫してしまうのだ。

 こうした事態を避けるため、戦後の日本企業は、“正社員に対して滅私奉公的な働き方を要求する”という独特の企業カルチャーを作り上げた。

 不景気の際に大量の余剰人員が発生しないようにするためには、社員の新規採用は最小限に絞り、好景気の時には、無制限の残業でこれを乗り切る必要があった。新しい場所で事業を行う場合も、現地で人を新規に採用せず、転勤を伴う強制的な配置転換でカバーするのが基本となっている。

 つまり日本企業における、滅私奉公的な長時間残業や、個人の生活を無視した強制的な転勤は、すべて終身雇用を維持するための手段として機能していたというのが現実なのである。

生産性の向上は付加価値で実現すべき

 企業の付加価値を拡大させるためには、事業構造の転換が必須となるケースが多い。そうなってくると、人員の新規採用や解雇といった、日本企業にとっては避けたいテーマと向き合わざるを得なくなる。そのような事態を回避するため、あえて効率の悪い残業抑制に血道を上げていると解釈することもできる。

 非常に良くないことに、労働集約的な産業構造の場合、労働時間を削減すると、その分だけ生産量が減少する可能性がある。日本社会は、依然として労働集約的な色彩が濃く、残業時間の強制的な削減が、売上高や利益を犠牲にしてしまうかもしれないのだ。

 筆者は、生産性を向上させたいのであれば、諸外国のように、付加価値の方を高めるべきだと考えている。付加価値の高いビジネスに取り組めば、必然的に労働時間は短くなり、働き方改革はごく自然に実現できるはずだ。