業務の見直しを伴わないアウトソーシングでは、総人件費が増加する可能性が高く、その分、下請け企業に対する支払いなど、別の部分にシワ寄せが行くことになる。社会全体で見た場合にはむしろマイナスになるケースも出てくるだろう。

なぜか一斉に退社したり、テレワークを実施

 官の取り組みにも、首をかしげざるを得ないものが多い。首都圏では、通勤電車の混雑を緩和するため、約260社が一斉に時差出勤に取り組む「時差Biz(ビズ)」が7月11日、スタートした。これは小池百合子東京都知事が提唱したもので、都の意向を受け、都内各社がフレックスタイムを推進したり、鉄道会社が時差出勤用の列車を増発するといった取り組みを行っている。

 時差Bizの本来の目的は、通勤電車の混雑緩和だが、東京都では働き方改革の一環として位置付けており、企業側も同様に認識している。

 一方、政府もワークライフバランスを推進する目的で「ゆう活」を実施している。官庁における早期退庁促進などが行われたが、このキャンペーンについては知らないという人も多く、告知そのものがうまくっていない。また7月24日からは「テレワーク・デイ」と称して、政府が各社に在宅勤務の一斉実施を呼びかけ、900社がこれに応じた。

 一連の取り組みに共通するのは、目先の残業を減らそうという考え方である。確かに長時間残業の多くは夜間に行われるので、早く退社したり、一斉在宅をして通勤時間を削減すれば、見かけ上の残業時間を短縮できる可能性はあるだろう。まずはできるところからという考え方を否定するわけではないが、問題の本質からは少々脱線していると言わざるを得ない。

社会全体の労働時間を減らさなければ意味がない

 働き方改革の本質は、諸外国に比べて低いといわれる労働生産性を向上させるところにある。日本の名目労働生産性は先進各国の中では突出して低くわずか38.6ドルしかない。米国は58.4ドル、ドイツは60.2ドルなので、相当な差を付けられていることが分かる。

 労働生産性が低いということは、同じ生産を実現するのにより長時間、働く必要があることを意味している。OECDの調査によると、日本人の2014年における年間総動労時間は1729時間だった。以前に比べればかなり減ったが、それでもフランス(1473時間)、ドイツ(1371時間)と比較するとかなり長い。またこの統計は事業者側からのデータなので、いわゆるサービス残業が含まれていない可能性があり、実際の労働時間はもっと長い可能性も指摘されている。