ただし。日本だから農業の存在感が小さいのだ、と勘違いするなかれ。世界最大の農業国、アメリカはどうだろうか。1.2%。フランス、オランダなど、ヨーロッパを代表する農業国でも、それぞれわずか1.5%と1.7%。農業が儲からない産業なのは、先進国共通の現象なのだ。(海外農業情報。数字は2014年のもの)

 これはエンゲル係数とも深く関わっている。エンゲル係数とは、一般家庭が出費の中で食費がどのくらいの割合を占めているか、という数字のことで、エンゲル係数が高いと「食べるのに必死でお金をよそ(教育や医療、遊興)に回す余裕がない」という、貧困度を示す値ともなっている。

 農業がGDPに占める割合が1%強と小さいということは、それだけ国民が自分の稼ぎをスマホの購入やネットショッピングなどの出費に振り分ける余裕がある、つまりエンゲル係数が低くなるということなのだ。

 農業がもし経済成長のエンジンになり、GDPの5%、10%になっていくとどうなるか。なんと、食べるのに必死で生活に余裕がなくなるのだ。エンゲル係数が高くなり、食べること以外に出費する余裕が失われるのだ。

 これは農業研究者としては大変悩ましい話だ。他の産業と比べて経済的存在感を増したら国民が貧しくなるのだから。さりとて、農業が衰退し、食糧生産が不全に陥ったら、飢餓が発生する恐れがある。そうなると、食糧の価格も暴騰するから、結局国民が貧しくなる。

 結局、農業がGDPに占める割合が小さくなるくらいに他産業が元気な方が、国民は豊かな生活を送れる。さりとて、農業が衰退しすぎても国民は十分な食糧が得られず不幸になる。バランスの問題なのだ。

経済のバランスとフシギ

 では、先進国の今の状況、すなわちGDPの1%強くらいだと国民が豊かに生活できるのだとして、そのバランスをどう保つのかが次の課題になる。上述したように、米麦といった基礎食糧を作っても儲からない。なにせ、世界一の農業国、アメリカでさえ儲からないのだ。

 マイケル・ポーラン著『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社)によると、カウボーイの時代(開拓時代)には1農家が生産する余剰食糧は12人分でしかなかったのが、今や129人分と、10倍以上の生産性を誇る。なのに奥さんに働きに出てもらい、自分も国から補助金をもらわないと、家族4人の生活が成り立たないと言うのだ。