環境への適応力を高めるためにも

 多様な環境、変化の激しい環境への適応力を高めるためにもダイバーシティは有効だ。

 進化生物学者の長谷川英祐によると、アリやハチの集団のなかにはエサの糖度や巣の中の温度といった刺激に対して敏感に反応する個体と、鈍感な個体が混在しているそうである(『働かないアリに意義がある』、メディアファクトリー、2010年)。そのため、たとえば巣の中の温度がわずかに上がったときには少ない個体が警鐘を鳴らし、大きく上がったときには多くの個体が行動に移る。つまり、状況に応じて適当な数の個体が動員される合理的なシステムになっているわけである。

 企業でも多様な情報や刺激に対する感度の異なる人材をそろえておけば、リスクに対して迅速に対処できるし、流行や消費者行動の変化にも素早く適応できるようになる。今後、技術革新やグローバル化のスピードはいっそう加速すると考えられるだけに、環境適応力の面からも人材のダイバーシティはいっそう重要になるはずだ。

 組織のスタイルも変わりつつある。さまざまな業種においてプロジェクトベースの仕事が増えており、情報・サービス関係の業種では組織そのものが常設のプロジェクトチームになっている企業もある。そこでは社内、社外を問わずチームとしてパフォーマンスをあげるのに最もふさわしい人材が求められている。高い専門性をもった人材のベストミックスが追求されるわけである。

 消極型を「ダイバーシティ1.0」、共存型を「ダイバーシティ2.0」とするなら、こうした戦略型の「ダイバーシティ3.0」こそ、日本企業の閉塞感を打破する改革の柱となるのではなかろうか。