多くの日本人はドナルド・トランプ次期大統領(以下トランプ)を快く思っていない。昨年6月に米大統領選挙へ出馬を表明して以来、繰り返される暴言や失言に嫌気がさしており、大統領として不適格との評価を与えてさえいる。
その中で筆者が光明を見出すとしたら、トランプの交渉力だろう。
トランプは「交渉の達人(The Art of Deal)」という自伝を出版しており、特に不動産分野での交渉力には自信を持つ。強引ではあるが、まとめ上げる術は強みでさえある。
トランプ政権が誕生するにあたり、日本では今後の日米関係に関心が注がれるが、国際舞台で期待されるのは中東和平である。2015年夏、トランプは米テレビ局とのインタビューで大胆な発言をした。
6か月で中東和平を実現させる
「中東和平を実現させるために、私に6カ月ください。いや半年もかからないかもしれません。パレスチナのアッバス議長とイスラエルのナタニヤフ首相と膝を突き合わせて交渉をします」
映像を観ながら、「楽観的なことを述べる候補だなあ」との印象を持った。まだ共和党の一候補に過ぎなかった時期である。ましてや共和党の代表候補どころか、次期大統領になることさえ分からなかった。
これまでのトランプの発言の経緯を考えると、「中東和平を実現させる」との言い分は希望的観測に過ぎない。選挙前の大見得とも言えた。しかしトランプとイスラエルの関係を探ると、根拠のない発言でないことが分かってきた。
2004年、トランプは米国で最大級のユダヤ系米国人のイベント「イスラエル・パレード」の大会委員長を務めている。ニューヨーク市五番街を練り歩くパレードで、肩にたすきをかけて参加し、親イスラエル派であることを示した。
実は2004年というのは、イスラエルがパレスチナのガザ地区に大規模侵攻をした年で、内外からイスラエルへの批判が高まり、大会委員長を務める人がいなかった。トランプは自ら手を挙げて委員長を務めたのだ。
娘イヴァンカさんがユダヤ系米国人ジャレッド・クシュナー氏と結婚(2009年)し、キリスト教からユダヤ教に改宗したことはよく知られている。だが委員長を務めたのはそれ以前のことだ。