社会全体として付加価値が低い場合、その国の産業はどちらかという労働集約的になっている可能性が高い。労働集約的な経済では、最終的な生産量は基本的に投入した労働量に比例してくる。こうした状況で単純に労働時間を減らすと、生産がシュリンクしてしまうリスクがある。規制の実施には慎重にならざるを得ず、そうなると規制の効果も半減してしまうかもしれない。

付加価値を増大させるためにはビジネスモデルの転換が必要となってくるわけだが、これには相当の困難が伴うだろう。

 2015年の通商白書によると、日本企業の輸出に占める市場拡大品目の割合はドイツや米国に比べてかなり低いという。米国やドイツは輸出品目のうち75%が市場が拡大する品目で占められているが、日本はわずか47%である。つまり日本企業は、古い製品やサービスに固執しており、世界市場で伸びていない品目が輸出の半数を占めている状況となっているのだ。これではいくら製造業に強みがあるといっても付加価値が伸びないのは当たり前である。

 日本企業もこうした状況は分かっているはずだが、現実にそれに対応できていないということは、何らかの大きな障害が組織内に存在する事を示唆している。おそらくそれは人材の問題だろう。ビジネスモデルの転換には労働力の移転を伴うからである。

 長時間残業の元凶の1つともいわれる独特の労使間協定(いわゆる36協定)も、俯瞰的に見れば、終身雇用制度を守るために機能しており(不景気の時に解雇しなくても済むよう、好景気での長時間残業を可能にする役割を担っている)、これが企業の体質転換を遅らせている面は否定できない。

 容易に転職でき、適材適所に人材が配置される社会にならなければ、企業のビジネスモデルを柔軟に変えることはできない。結局のところ、日本人の働き方の問題は、雇用流動化の問題と切り離すことはできないのである。