労働生産性は、労働によって生み出された生産額を労働投入量で割って算出される。同じ労働力で、付加価値の高い製品やサービスを大量に生産できれば生産性は向上する。同じ付加価値を短時間労働で生み出すことができた場合についても労働生産性は上昇する。一方、付加価値の低いものばかり生産していたり、生産量が少なかったり、あるいは労働時間が長かったりすると労働生産性は低くなってしまう。

 要するに労働生産性を引き上げるには、生産性を算出する式の分母を小さくするか、分子を大きくしなければならない。それなりの付加価値があるにもかかわらず、ムダな労働時間が極端に多いのだとすると、ムダを減らせば生産性は上昇する。つまり式の分母を減らすというやり方である。日本がそのような状況であるならば、残業時間の規制といった政策は大きな効果を発揮するだろう。

 しかし、分母ではなく分子、つまり企業が生み出す付加価値が低いことから、生産性が下がっているのだとするとやっかいである。付加価値が低い経済というのは労働集約型である可能性が高く、生産量が労働時間に直結している。つまり労働に大きなムダはないので、この状況で労働時間を減らしてしまうと、ダイレクトに生産が低下するという事態に直面してしまう。

日本人が長時間労働であることはほぼ間違いない

 そもそも日本人はどの程度働いているのだろうか。厚生労働省の毎月勤労統計によると、2015年度における月あたりの総労働時間は144.5時間であった。このうち所定内労働時間は134時間で、所定外労働時間(いわゆる残業)は11時間となっている。

 日本人の総労働時間は過去15年間で4.1%ほど減少している。所定内労働時間も同じように減っているが、残業は3.8%ほど増加している。残業が増えているのは事実だが、総労働時間という点では、時間が長くなっているわけではない。この調査は事業者を対象としたものであり、統計には表れない労働時間(いわゆるサービス残業)が存在している可能性がある。したがって、これらの数字を鵜呑みにはできないが、労働時間が著しく増加しているというわけではなさそうだ