リソソームでのオートファジーや別の(ユビキチン-プロテアソーム系などの)タンパク質分解機構がうまく働けば、このような不良タンパク質が細胞内から除去されると期待されます。

 つまり、オートファジー機構を利用して、アルツハイマー病やパーキンソン病や老化などの治療ができるようになるかもしれないのです。これは夢の未来医療です。

 けれども今のところ、研究はまだそこまでは進んでいません。オートファジーの研究はまだ基礎研究で、実用化の段階ではありません。

 もちろん、役に立たない研究は駄目だというわけではありません。このような基礎研究は、実用性とは別の基準で評価されなければいけません。

(今回のノーベル化学賞は、「分子マシンの製作」、つまり分子サイズのモータや「自動車」や「エレベータ」を製作した功績に対して授与されました。この分子マシン研究はオートファジーの研究よりもさらに実用化が遠い印象ですが、それでも分子マシンは研究する価値があります。)

妻・大隅萬里子元教授は共同研究者

 最後に、大隅良典栄誉教授の奥様について述べておきます。

 ノーベル賞受賞の記者会見に、大隅良典栄誉教授と並んで、大隅萬里子・帝京科学大学元教授の姿が見られました。

 報道によると、<「穏やかでニコニコしているので一緒にいて心が落ち着く。いい加減なのが『良い加減』だと思うようにしている」と夫婦仲の良さを見せた>とのことです(産経ニュース2016年10月4日)。

 大隅萬里子・帝京科学大学元教授の専門は、酵母菌などのオートファジー機構で、つまり夫・大隅良典栄誉教授の共同研究者です。共著の論文や著作があり、今回ノーベル賞の対象となった論文のリストにも、大隅萬里子元教授との共著論文が複数含まれています。(大隅萬里子元教授の貢献については、帝京科学大学のプレス・リリースが参考になります。)

 しかし報道には、大隅萬里子元教授の研究業績について触れたものはほとんど見られません。どうも会見に集まった記者は、目の前にしているのが共同研究者であることに気づかなかったようです。夫婦仲の良さなんかについて聞くよりも、研究内容について、はるかに面白い質問ができたはずなのですが。

 大隅萬里子元教授は、これからまだ大隅良典栄誉教授と並んで会見される機会があるはずです。新聞・雑誌やテレビなど旧メディアの記者は、大隅萬里子元教授の研究についてどれほど的確な質問ができるか、予習しておいた方がよいのではないでしょうか。