道路に大穴が開いたり、まさかの候補が当選したり、立て続けに世間を騒がす事件が続いていますが、そうなると地味で目立たない(失礼)科学ニュースは、派手な見出しの狭間に埋没してしまいます。
先日2016年10月31日、慶応大学において、理論物理学の重要な成果が記者発表されました。
ですが、「一般の熱エンジンの効率とスピードに関する原理的限界の発見」という、この難解な題は果たして日本語なのでしょうか。さっぱり意味が分からないという反応が普通でしょう。よほど注意深く報道記事を追う人か、はじめからこの分野が大好きでたまらないマニアでもないと、どこが重要なのか認識できないでしょう。
けれどもこれは、熱力学・統計力学という古典的で正統的な理論物理学の分野でなされた、たいへん美しい鮮やかな成果なのです。物理学業界大興奮です。
アメリカの45代目大統領なんか1万年経てば誰も覚えていませんが、熱力学の法則は10100年後も有効です。そういう意味では、たかが大統領選より1096倍も重要です。
今回は、敢えてこの難解で純粋な科学のトピックスに真正面から取り組みましょう。この理論物理学の成果の、どのあたりが美しくて、マニアはどこに興奮するのでしょうか。正攻法で解説しましょう。
(どれくらいの読者がついてきてくれるでしょうか。ドキドキしながら書いてます。)
熱力学ってどんな学問?
ヨーロッパで発明された蒸気機関は、革新的テクノロジーでした。
蒸気機関は石炭を燃やす熱でピストンを動かしタービンを回し、汽車を走らせ汽船を推進し自動紡績機を回し、産業を革命し環境を改変し諸国を植民地化し、すっかり世界を作り変えてしまいました。