直接金融という、目に見えない新しい金融の形を立ち上げるためには、証券取引所の母体となる会社の創設から、株式売買の注文を取り次ぐコンピューターシステムの整備、それを扱うミャンマー側の人材の育成、関連法の整備、そして企業を審査する弁護士や会計士の能力向上まで、課題は山積していた。
このうち人材育成について、大和証券グループは2013年、ミャンマー政府と「大和日緬基金」を設立。
この国の財務省や中央銀行、ミャンマー経済銀行、企業投資管理局などの若手幹部を日本に半年間呼び、アジア各国の証券法制や資本市場の仕組みについて東京大学公共政策大学院で学んだ後、大和証券グループで実務研修を積む制度を立ち上げた。
この奨学金制度の運営や参加者の派遣、帰国者のフォローアップは、平松さんたちの任務の1つだ。
また、株式や債券について全くと言っていいほど知識のないこの国では、証券取引について正しい知識を普及するための教育活動も重要だ。
現地の商工会議所などと連携し、一般の市民や公認会計士、法曹人材などを対象にヤンゴンやマンダレーでセミナーを開いては、「どういった要因で株価が変動するのか」といった質問に答えたり、投資ガイドの作成を進めたりして株式投資の紹介に務めている。
多忙な毎日を送る平松さんを突き動かしているのは、これまで鎖国経済の中で、携帯のSIMカードや中古車、あるいは不動産への投資以外に選択肢がなかったこの国の人々に対して新しい選択肢を提供したい、という思いだ。
「証券や株式投資による資産形成が可能になり、国による財産形成が改善することは、民主化の定着にとっても重要です」
「希求の時の友こそ真の友」
多くの人口を擁し、経済規模が大きく、さらに天然資源も保有するミャンマーだが、長年にわたり保守的な経済政策がとられていたことによって、資本市場の立ち上げは大きく立ち遅れた。
1980年代後半から改革開放路線をとるベトナムでは、2000年にホーチミン、2005年にはハノイに証券取引所が設立され、上場企業数も着実に伸びていく一方、この国はかたくなに直接金融への道を閉ざしていたのである。
それだけに、一気に花開いたミャンマーの経済政策には、注目度が一層高まっているが、実はミャンマーに証券取引所の開設を働きかけていた国が、日本以外にもう1つある。韓国だ。
2011年にラオス、翌2012年にカンボジアにそれぞれ証券取引所を開設するなど、アジアで豊富な経験と知見を持つ韓国は、ここミャンマーにもさまざまな形で攻勢をかけてきたという。