襟付け作業を行う女性たち

9年ぶりの新規投資

 ハニーズがミャンマーへの投資を検討し始めたのは、2010年のこと。同社はそれまで生産の大半を中国の協力工場に委託していたが、中国国内の消費拡大や人件費の高騰を受けて、「チャイナ・プラスワン」としてミャンマーに着目したのだ。

 2012年3月に資本金300万米ドル(約2億4700万円) で前出の100%子会社「HONEYS GARMENT INDUSTRYLTD.」を設立。翌4月に稼働を開始した第1工場(敷地面積8138.2㎡)は、同社にとって海外初の自社工場であると同時に、日本勢としては9年ぶりの同国への新規投資として注目を集めた。

 操業以来、生産量は順調に伸び、現在、従業員1200人がフル稼働で月に25万枚、年間300万枚のボトムスを生産しているという。

 冒頭の第2工場は、第1工場を上回る約3万㎡の敷地を有し、830人を収容する社員寮も併設している。

 この国に注目した理由について、江尻義久・代表取締役社長は本誌のインタビューに答え、「当社のような縫製業はどうしても自動化できない工程があるため、労賃の低さが大きな魅力」「中国から輸入すると10%の関税がかかるが、ミャンマーで作った製品は関税なしで輸入できる点も大きい」と述べている(2013年5月号参照)。

 その言葉通り、同社はこのほど、4年後の2019年を目途に、第1、第2工場と同じミンガラドン工業団地内に第3工場を建設する計画を発表するなど、ミャンマー投資をさらに加速させている。

 3つの工場で合計5000人体制を確立し、人件費の高騰が続く中国での生産をここミャンマーで代替えしていくとともに、将来的には巨大な小売市場である中国に商品を供給する「アジアの工場」に育て上げていこうという戦略だ。

 そんな同社の挑戦を最前線で率いる前出の井口さんをミンガラドンに訪ねたのは、「ダディンジュ」と呼ばれる雨期明けの満月のお祭りを2日後に控えた10月末のことだった。

 2年半前に誌面で紹介した工場を実際に見ることができるという期待感と、多くの労働者たちを束ねる経営者とはどんなに威圧感のある凄腕の人物だろうかという緊張がないまぜになり、多少身構えつつ訪問した筆者を、井口さんは柔和な笑顔で出迎えてくれた。

 茨城の訛りがかすかに混じる朴訥とした口調に、するすると緊張がほどけていく。聞けば、昨年10月に着任するまで、ミャンマーを訪れたこともなければ縫製業とも無縁の業界にいたというから驚きだ。一体、どんな人物なのか。